「生ける英雄たちの中で、最も偉大なるクリサンドラルは、挫折を受け入れ、何があろうとも歩みを止めることはなかった。彼は人が目的を達するためには、しばしば、その途中で思いもかけないような、まるで無関係の挑戦に、勝利しなくてはならないことを知っていた。」 "Greatest of all living heroes, Klysandral took setbacks in stride, and did not let the unexpected deter him. He knew that to achieve a goal, one must sometimes overcome unforeseen, even unrelated challenges." マイチャス・ガイルによるクリサンドラルの追悼演説より
Michuth Gyl, the Eulogy of Klysandral |
デーモンウィング号 はまるで帆船のような姿をしているが明白な違いがある。それは次元と次元の間を航海することが出来る。その秘密は、この船が実際のところアビス各層そのものから作られている点にある。船の外殻は独特な手段で次元界を隔てる壁を貫く能力を持つ。しかし、キャラクターにとっては船上や船内が依然として混沌にして悪の空間アビスであることは変わりない。
船の来歴 History of the Ship
何百年、もしかしたら何千年もの長きに渡り、魔神デモゴルゴンはひとつの考えを暖めていた。アビスは無限の層を持つ(そしてそれは事実だ)が、にもかかわらず同じ属性に支配されている。彼はデーモンの鍛治師と船大工を集めると、アビス各層の特性を取り入れた帆船を建造させた。この船はデーモンウィング号 と呼ばれ、その乗客を下方次元界のどこにでも連れて行くことが出来た。デモゴルゴンはバロールのストラオスをこの船の船長に任命した。
ストラオスは何百年にも渡り、さまざまな乗客や貨物を下方次元界のあらゆる場所に運んできたが、徐々に不満を募らせてきた。彼はデーモンウィング号 の指揮を部下であるアングアスに預けると、船の“下甲板”に閉じこもってしまった。そしてさらに数百年の後、ある暗黒の契約の末、デモゴルゴンは定命の魔法使いエミリコルに船を売り払ってしまった。ストラオスは船の自由と独立を勝ち得るための計画を練り始めた。
今現在、彼の支配領域はよく防御されている。彼の部下は日々新たな武器を鍛えている。彼自身は他の次元界にいる暗黒の勢力にさまざまな申し出をし、同盟関係を築いている。ストラオスの反乱は準備段階を終えつつあった。
しかしながら、よもやエミリコルが、地獄に向かおうとする英雄の一団にデーモンウィング号 の所有権を譲渡するとは、バロールは考え及びもしなかった…。
デーモンウィング号 の環境 The Environment of Demonwing
船の外殻は石で作られている。船殻全体は睨みつける顔と恐ろしげな髑髏が彫り込まれており、いかにも不気味なデーモン的様相をしている。甲板は擦り切れた、長年風雨にさらされた板で敷かれている。船の全部位 ‐ 船体、甲板、特徴的な内装 ‐ は、物質に影響を与える呪文(ディスインテグレイト、パスウォール など)に対し、呪文抵抗30を持つ。この呪文抵抗は施錠された扉に対するノック 呪文や、ライトニング・ボルト のような攻撃呪文に対しても適用される。船とその環境は悪のオーラ(圧倒的)を発している。そして通常の手段(呪文など)で感知することが出来る。
乗船 Coming Aboard
船のタラップがエミリコルの埠頭から船尾楼まで延びている。異なる手段で乗船しようとする試みた場合、乗船者は12d6ポイントの[電気]ダメージをこうむる(反応セーヴ難易度25・半減)。加えて、そういったわがままな乗船者は、解呪も出来ず、ディスインテグレイト で分解することも出来ないウォール・オヴ・フォース で撃退されることに気付く。テレポート やディメンジョン・ドア といった手段を試みるキャラクターも同様の処理を受ける。要するに、船内に入る唯一の方法はタラップを昇るだけである。
PCがすべてタラップを昇り終えると、すぐに船は埠頭を離れて出帆する。船はメタルストームに突き進むことから、PCが切り刻まれる恐怖におののくが、やがて船の周囲はぼんやりとかすんで行く。(数分後)再び視界が澄み渡った後、船は河幅400フィート程の、黒く穢れた流れを馳せ下っている。河の両岸は峻厳な、岩の荒野が地平線まで広がっている。空は赤い雷雲が嵐のように渦巻いている。
乗員 The Crew
下甲板にはより多くのクリーチャーがひそんでいるが、デーモンウィング号 の船員は常に主甲板に待機している。彼らは一見してそこにいることがわからない。なぜなら彼らはそれぞれ不可視状態が永続化されているからである。船員は30体のスペクトラル・トロール、3体のスケルトン・ウォリアー、デーモンのグラブレズゥから成る。これらの生物は船に束縛されており、決してここを離れることができない。彼らは船を帆走させる事と、攻撃された場合に自衛する以外は何もできない。この専属の船員抜きで船はステュクス河を帆走する事も、次元界を渡る事も出来ない。船員の生態を考慮すると、船は明らかに夜間航行を常態としている。
グラブレズゥのアングアスは船の船長として仕えている。彼はより高位のデーモン(ナルフェシュネー、マリリス、バロールなど)を除く誰の命令や指令も受け付けることはない。彼はすでにエミリコルより(ストラオスを介して)、地獄の第五層と第六層の間に位置する特殊な領域に直行するように命令を受けている。そしてそこには〈冷鋼砦〉とネヘオド寺院が横たわっている(次章参照)。アングアスと彼の船員たちは攻撃を受けない限り、PCが船内にいたとしても単に無視する。
スペクトラル・トロール Spectral Trolls (30体):ヒット・ポイント39;『Tome of Horrors, Revised』396ページ
スケルトン・ウォリアー Skeleton Warriors (3体):ヒット・ポイント129;『Tome of Horrors, Revised』392ページ
グラブレズゥのアングアス Ungurth, Glabrezu: ヒット・ポイント174;『モンスター・マニュアル』145ページ
旅程 The Trip
旅のほとんどはステュクス河を介して行われる。その河幅は100フィートほどであり、ゆったりとした流れをしている(デーモンウィング号 はこの流れを辿っている)。水は黒く、大いなる危険を伴う。水に触れるか、あるいは飲んだキャラクターは、すべての記憶を喪失する(頑健セーヴ難易度17に成功することで、8時間より過去の記憶は覚えていることができる)。これはフィーブル・マインド 呪文の効果を受けたのと同じとして扱う。幸いなことに、PCは河について心配する必要がほとんどない。なぜなら彼女らは下甲板に行く以外、船尾楼を離れることができないからだ。彼女らが行くことができるのは、主甲板に設けられたハッチだけだ。そしてこのハッチは下甲板にだけ通じている。付録の解説に記されたように、この領域はPCが期待したよりはるかに珍しく、また挑戦的である!
旅の大部分で目にする河岸は、生きるものが何一ついない不毛な灰色の荒野だ。旅の終着点付近で、船は短時間だけゲヘナの次元界を通過する。そのときデーモンウィング号 は何もない闇の中を航行する事になる。そこで見ることができるのは、彼方に浮かぶ鬼火のような薄明かりだけだ。
旅は河を3日間下る。その間、甲板上にいるのなら、いくつかのさまざまなイベントに遭遇するかもしれない。初期のある時点において、3体のメゾロス(〈知識:次元界〉難易度18に成功したものは、これがキチン質の殻を持つユーゴロスである事に気付く)が陰惨な大地より姿を現し、脅すような仕草をする。しかしながら、しばらくたつと彼らは船がいかなるものかについて気付く。彼らはたちまち逃げだしてしまう。彼らは恐れて逃げたわけではない。PCの詮索に気を悪くしただけだ。
DMは船が航行する間、PCにさまざまな下方次元界の様相を垣間見せる事もできるだろう:デヴィルとイェス・ハウンドに追われるラルヴァの群れ;天空を駆ける3体のナイトメア;急ぎ書簡を運ぶ羽根のあるメフィット;中にはデーモンウィング号 の航行を眺めるナイト・ハグすらいるだろう。
(ありそうもないが)もしPCが船の到着以前に主甲板に到達したのなら、DMは冒険者たちにナイト・ハグと遭遇させ、冒険に関する情報を入手させても良いだろう。魔法のアイテムと引き換えに、彼女は情報を与えるだろう。アイテムの数と種類により、彼女から得られる情報は精度を増すだろう。有益かつ貴重な情報を学ぶため、キャラクターは若干の永続的な魔法のアイテムを差し出すべきだ。しかしながら、彼女らが下甲板を単に通過し、魔法のアイテムを集める事ができなかったとしたら、このような取引は不可能だろう。ハグはPCに以下の情報を伝えることができる:
デーモンウィング号 の外観は多かれ少なかれ、大きな2本マストの帆船のように見える ‐ にもかかわらず、船体は石で作られており、喫水線のすぐ上にはコウモリのような羽根が設けられている。
船尾楼 Sterncastle:船尾楼は、無用なクリーチャーが船に侵入することを阻止するものに似た、破壊不可能なウォール・オヴ・フォース により護られている。この障壁は、PCが船尾楼から直接甲板に移動する事も阻止している。船尾楼の中央に設けられているハッチはここから逃れ出る唯一の方法だ。それは下甲板に続いている。
後甲板 Quarterdeck:このU字型をした甲板は狭く、骨で作られた大きな舵輪を除くとほとんど隙間はない。船が出航している間、アングアスはほとんどの時間をここで過ごす。注意深い観察者は(〈視認〉難易度15)、時折舵輪が自律的に回転しているさまを見ることができる(不可視状態のアングアスを見る事ができないのであれば)。
主甲板 Main Deck:ここはアンデッドの船員が配置されている場所であり、船を帆走する要務をこなしている。甲板は広いが誰もいないように思われる。ゴーストのような船員は皆不可視状態であり、静かな冷えたガスのように感じられる。甲板中央に設けられた木製のハッチは、ストラオスの部屋に至る(下記バロールの塔参照)。船の外に出るためには、PCは船尾楼から下甲板に行き、ストラオスの部屋を介してこのハッチから出てくる必要がある。この行程は、聞くは易し行うは難しである。
主甲板の下には隔室が設けられ、4艘の15フィート級長艇と2基の錆びた(しかし機能する)鉄の潜水球が格納されている。後者は直径10フィートの球形をしており、狭苦しいが、中型クリーチャー4体を1時間活動させるだけの空気を蓄えておく事ができる。潜水球の内部ではバラストを制御する事で浮き沈みを操作する事ができ、また空気を噴出す事により前後左右に移動することもできる。潜水球の移動速度は毎ラウンド10フィートまでである(操作には乗員1名の全ラウンド・アクションを必要とする)。内部にはハッチが1つだけ設けられており、また6つの丸窓により外部を見渡す事ができる。潜水球のACは20、硬度は10、ヒット・ポイントは75である。それ以上のダメージを受けると潜水球は破裂する。もしそのような状況になった場合、潜水球と貨物はすべて破壊される。デーモンウィング号 自身と同様に、長艇と潜水球はけばけばしいデーモン的なモチーフの装飾を施されている。
潜水球の窓はウォール・オヴ・フォース であり、デーモンウィング号 の所有者が命ずるなら内側から外側へ(またその逆でも)、武器攻撃や呪文の効果線を通すことができるようになる。隣接マスまでの武器攻撃であるなら、水に触れることなく攻撃を行うことができる。
船首楼 Forecastle:この強化された構造物はデーモンウィング号 が持つ唯一の攻撃手段を隠している(船の質量を考えると非常に効果的な、正面に装備されたラムを除く)。床面に隠された(〈捜索〉難易度20)ボタンを押す事により、先端に緑色の宝石を付けた鉄柱が隠しハッチから伸び上がる(展張完了まで1ラウンドかかる)。鉄柱は20フィートの長さである。再びボタンを押す事により、宝石から射程距離150ヤード(450フィート=90マス)、6d6ポイントの[電気]ダメージと6d6ポイントの[力場]ダメージを与えるライトニング・ボルト が発射される。このライトニング・ボルト は[力場]ダメージも与えるため、敵船の船体に対して有効に作用する。この兵器は3ラウンド毎に1回だけ起動することができる(砲手1人の標準アクションを必要とする)。最後に起動してから10ラウンド後に、鉄柱は船首楼に格納される。
帆 The Sails:2本のマストが甲板上から80フィートの高さまでそびえている。人間の皮膚を縫い合わせて作られた、デーモンの顔を描いた帆が船員の手によって風を受けている。このひどく醜い魔法の帆は、凪いでいる時さえ風をはらむ事ができる。船は船長の舵輪の動きに応じて動く。
下甲板 Below Decks
デーモンウィング号 の外部は若干の珍しい性質を見せる。しかし冒険者は下甲板に潜り始めた段階で、これがまさに普通の船でない事を実感する。下甲板の領域は硬い岩を掘りぬいた地下室のように見える;実際、キャラクターが壁や床、天井にダメージを与えるなら、どれほど掘り進もうとも硬い岩盤を見いだす。マップに示された範囲だけに限っても、内部は船の外殻よりもはるかに広大である。にもかかわらず、これらの範囲は船内である。ストラオスの塔(下記参照)を含む無限に広がる広大な空間さえ、アビスの層の一部であり、すなわち船内に位置する。
覚えておくべき重要な事実は、ストラオスは甲板上で起きた出来事や船の状態について熟知している事である。また下甲板に潜む住民たちは大部分が孤立している。特に記されていない限り、彼らは船内に侵入する誰であっても船に対する脅威であると判断する。
もしPCが幾体かの住民を滅ぼした後に下甲板を離れるか、あるいは1時間以上の休養を取るなら、デーモンの守護者たちはゲートを開いて破壊された前任者に代わる新任者を配置する(DMの裁量)。キャラクターがいったん離脱し、その後に再襲撃するのなら、そのときまるで異なる新たな勢力を配置するのも良いだろう。DMは守護者として配置された者以外のデーモンについて、彼らが下甲板を自由に動き回る状況を与えるべきである。どこかで遭遇戦が起きた場合、他の住民がそれを聞きつけてよそから来援に訪れる可能性は常にある。
マップのコンパス方位は、船首 Fore、船尾 Aft、左舷 Port、右舷 Starboard が示されている。
伝声管 Snake Tubes
下甲板の住民は伝声管を使うことにより、距離を隔てていても互いにコミュニケートできる。多くの部屋の、壁の高い位置に蛇の形をした石の彫刻が突き出ている。蛇の口は開いて自在に伸張し、口の中が胴体につながる筒状になっている。蛇は魔法の伝声管として機能する。他の伝声管へは周囲5フィートに届く音量で声を届かせることができる。対話を望む者は、どの部屋に声を届かせるかを決定することができる。
任意遭遇 Random Encounters
下甲板にはデーモンとモンスターが多数存在する。DMは住民が知的かつ戦術的な方法で動き、行動するようにするべきだ。下甲板のクリーチャーの大半はグレーター・テレポート を発動する事ができることから、DMは容易に住民を望みの場所に配置する事ができる。加えて、メイン(小型の人型をした最下級デーモン)が領域全体をあてどなくさまよい、どこであっても遭遇する可能性がある。好戦的かつ愚かなこれらのフィーンドは、通常は目にするものすべてに襲い掛かる。さらに、ボダックもデーモンウィング号 船内をさまよっている(アビスで死んでモンスターに変成された人間)。彼はデーモンに捕らえられ、拷問にかけられて恐るべき死を遂げた。ボダックはPCよりもデーモンを憎んでいる。正しい状況下であるなら、キャラクターはその手助けを得ることが可能かもしれない。たいていの場合、それはデーモンであっても人型生物であっても何もかも攻撃する。
任意遭遇が起こるかどうか決定するため、1時間毎に1回1d20ロールを行え。
01〜14 | 遭遇なし |
---|---|
15〜17 | メイン1体 |
18 | メイン1d10体 |
19 | メイン3d8体 |
20 | ボダック(遭遇はこの1体のみ) |
メイン Manes (最大24体):ヒット・ポイント6;『魔物の書T』47ページ
ボダック Bodak :ヒット・ポイント58;『モンスター・マニュアル』227ページ
装備:ヘヴィ・メイス+1 (アビス製。打突部が髑髏のデザインをしている)
デモゴルゴンの寺院に設けられたポータルを通ることで、キャラクターは今や、デーモンウィング号 内に存在するアビス階層に到達することができる。
〈昆虫谷〉 The Canyon of Insects | ストラオスの塔 Straoth's Tower |