地獄への降下 Descent Into Hell


  「真なる英雄の証とは、到底克服不可能と思える障害に直面した際も、努力を諦めることなく、勝利を確信し続けることができるか否かにある。クリサンドラルはまさにこのような英雄であった。地獄の門でさえ、彼を拒むことはできないだろう。」
  "The mark of a true hero is that when faced with an insurmountable obstacle, he not only presses on, but remains confident of a just solution. Klysandral was such a hero. Even the Gates of Hell, I am sure, would not deter him."
マイチャス・ガイルによるクリサンドラルの追悼演説より
Michuth Gyl, the Eulogy of Klysandral

 

  デーモンウィング号 が停船した時、PCは自らが現実にも、比喩的にも地獄にいることに気づく。彼女らはいま、巨大な氷山の間に停泊している。ここはステュギアと呼ばれる凍結した(正確には半凍結した)地獄だ。


最近の地獄の歴史 A Recent History of Hell

  地獄の歴史を書物に記したら、存在するすべての図書館では足らないほど多量だ。ここでは最近の出来事と、現在の状況に至る過程となった過去の出来事を記す。

  黎明の過去より地獄の九つの層を支配してきた支配者の名は、知識を得た者たちの記した書物や巻物に残されている。このような禁断の知識を学んだものは、アスモデウスという名の存在が地獄の大穴の底に鎮座し、他の支配者を支配している事実を知った。彼ら地獄の貴族は、邪悪かつ利己的なクリーチャーであり、互いに争うことが日常であった。通常、彼らは武力を以って衝突することはなかった。彼らの戦いは無言の脅威と謀略から成っていた。しかし、デヴィルは必要とあらば流血を厭う事はなかった。最終的に、2つの軍勢が対立した。それぞれは強大なる〈地獄の公爵〉が率いていた。一方の軍勢はバールゼブルというデヴィルに率いられていた。そして一方はメフィストフェレスに率いられていた。そしてアスモデウスはどの勢力にも与しなかった。

  対立はたちまちのうちに終わった。メフィストフェレス(彼の同盟者はマモンとディスパテルだ)とバールゼブル(彼の背後には総督のモロクと扇動者ベリアルが続いた)の対立は戦争に移行した。アークデヴィルのゲリュオンはメフィストフェレスに与したが、後に彼はアスモデウスに忠誠を誓った。その大戦はゲリュオンの合図により蜂起した両軍のピット・フィーンドが両軍の支配者とアークフィーンドを打ち負かすことにより終結した。彼らは我欲のために反乱を起こしたのではなかった。彼らの忠誠はただアスモデウスに捧げられていただけだった。

  アスモデウスは自身の権威を強化するため、両軍の将軍たちを昇格させた。これらの8体のピット・フィーンドは〈暗黒八魔将 Dark Eight〉と呼び習わされることになった。一方、第九層の君主は彼自身の目的のため、放逐されるか追放されたアークデヴィルを探し求めた。彼はまだ彼らに飽きていなかったのだ。地獄の大王はこの対立における明白な勝者であり、ネッソスの君主として各層の支配者を再配置するべくアークデヴィルたちと取引を始めた。このようにして、アスモデウスはアークデヴィルの勢力配置を自身の好みに合うような形で作り直した。確かに、バールゼブルとメフィストフェレスはいずれもアスモデウスを倒し、全地獄を支配する野望を放棄していなかった。しかしアスモデウスにはわかっていた。おそらくは正確に。彼の地位は彼がその守備に固執するよりも、ライバルたちが互いに争い、自身の領地支配に汲々としている状況の方がより安全であることを。

  若干のアークデヴィルは、アスモデウスによる猶予期間を利用して、謎めいた姿や異なる容姿をとって地獄の幽暗の中に逃れ去った。多くのものは滅多に使わない名前を選び自称した(たいていの者は異なる言語を用いた異名を多数持っていた)。ベリアルは愛娘に第四層の支配権を譲渡した。そのため彼は親子で共同統治することになった。寛大なるアスモデウスであったが、ただ1つモロクだけは例外であった。この第六層の前支配者は追放され、マラガールデという名のハグが跡を襲った。これら一連の出来事の背景は明らかになっていない。

  定命の観察者には理解不能な出来事のひとつに、アスモデウスが彼に忠誠を示したアークデヴィルと取引をしなかった事実がある。退位させられた公爵のゲリュオン(しばしば忘れられた君主と呼ばれる)は完全に無視されていた。彼はかつて支配していたステュギアに放置され、あいまいな立場に置かれていた。ステュギアに太古より浮かぶ氷塊に封じ込められた、不名誉なるアークデヴィルのレヴィストゥス大公は覚醒させられ、層の支配権を与えられた。侮辱の仕上げとして、ミナウロスの支配者マモンには忘れられたゲリュオンのそれに似た蛇の下半身が与えられた。

  しかしながら、これら一連の出来事を俯瞰すると、アスモデウスの計画能力には限界がないことがわかる。それから多くの年月が流れた現在、ゲリュオンは沈思黙考し、以前の地位を取り戻すために今一度、第九層の支配者の計画に仕えようとしていた。

  すこし前にアスモデウスはネッソスの大要塞マルシームにゲリュオンを呼び出した。そこでアスモデウスはゲリュオンに対し、寒冷なる地獄第五層の支配権を再び与えようと申し出た(推測だが、アスモデウスはレヴィストゥスが張り巡らした他の層に対する陰謀を考慮していたと思われる。ゲリュオンがレヴィストゥスを退位させるのであれば、両者は共に利益を得るだろう。アスモデウスは数世紀前にこの脅威を予知していたが、レヴィストゥスの持つデヴィルを超えた未知の狡猾さは有用であるため、彼の代替物を用意する間はこれを放置していたと思われる)。退位させられた公爵がアスモデウスの支持を得るために行わなくてならないことは、地獄の第五層と第六層の間隙にまもなく出現する寺院 ‐ ネヘオド寺院を制覇することであった。ゲリュオンはそれを受け入れた(アスモデウスは彼がそうすることを知っていた)。アスモデウスは玉座の腕木の上で鉤爪を鳴らすと笑った ‐ それは多次元世界をすくみ上がらせる音だった。彼の計画は策定された段階で、完成したも同然だったからである。


ステュギア Stygia

  ステュギア、地獄の第五層は下方次元界全域を貫くステュクス河の源流である。この暗黒の大河の源流は、ゆっくりと融ける想像を絶するほど巨大な氷山が浮かぶ、果てしない海につながっている。

  タントリンという名前の巨大な都市が、この層の中心付近の氷で覆われた島の上に築かれている。デーモンウィング号 はその地獄の都市が視界内に入るずっと以前に停止する。実際、船は2つの巨大な氷山に挟まれた海面において停止する。ステュギアでもこの付近は閑散としており、層の住民はあまり近寄ろうとしない ‐ 今現在、下方のどこかにあるネヘオド寺院を除いて。

  アムニズゥ(小さめで翼を持つ、ステュクス河の往来を仕切っている人型の上級デヴィル)の支配者であるレヴィストゥス大公は、巨大な氷山の中からステュギアを支配していた。彼は移動能力に欠けるが、それを埋め合わせる野心と狡猾さ、そして魔力を持っていた。彼は別の層に対しても食指をうごめかせていた ‐ おそらくは第六層の支配権を簒奪しようと。

  アスモデウスの支援を得たゲリュオンは、レヴィストゥスの支配を覆し自身の力を取り戻すため、まずネヘオド寺院とそれが隠された領域を制圧して屈服する必要があった。ゲリュオンと彼の家臣アモンは、〈冷鋼砦〉と呼ばれる氷の要塞を第五層の氷中に築き、そこに彼らの軍勢を召集した。しかしながら、デヴィルの予想外であったのは、寺院のクレリックと防衛者たちが予想以上に強固に抵抗したことであった。そうであっても、PCが到着するまでに悪の軍勢はすでに優勢を得ていた。そして今や、寺院が悪の軍勢に屈服するのは時間の問題であると思われた。


凍れる穴への到着 凍れる穴への到着 Arrival in the Frozen Pit

  デーモンウィング号 は錨を下ろすと2基の潜水球を引き出し、ステュギアの海面に浮かべる。PCが船尾楼以外に立っているのなら、地獄の層を流れる冷気を感じる(障壁により守られているにもかかわらず)。この寒風はすぐにはダメージを与えない。防護なしで長時間さらされることにより、1時間後に『冷気による危険:DMG303ページ』の華氏40度以下の効果をこうむる。凍てつく水はより重大な障害を与える。水に浸かったものは『冷気による危険』の華氏0度以下の効果をこうむる。プロテクション・フロム・エナジー [冷気]やリング・オヴ・エナジー・レジスタンス などを用いることによりこの障害は克服することができる。

  しかしながら、水から受ける最大の脅威は冷気によるものではない。ステュクス河の水はキャラクターの記憶を盗み取る効果を持つ。より悪いことに、ここは河の源流であることから、その脅威はより強烈だ。もしキャラクターが河の水に触れたのなら頑健セーヴ難易度28を、体の半分以上を浸かった場合は難易度33を、全部浸かった場合は難易度38を行わなくてはならず、失敗した場合は3d6ヶ月間にわたり一時的な記憶喪失状態になる。頑健セーヴに失敗したものは続いて同じ難易度の意志セーヴを行う。もしそのセーヴィング・スローに失敗するなら、彼女は同じ期間だけ基本的な運動能力と言語すら忘れてしまう(無防備状態として扱う)。彼女はどのようにここに来たか、あるいはここで何をしているかすら忘れるだろう。レストレーション 呪文を発動すれば50%の確率でこれらの障害から回復させることができる。またグレーター・レストレーション 呪文であるなら完全に回復させることができる。幸運なことに、これらの恐るべき効果はキャラクターがステュギアの水に触れた場合だけ起こる現象だ。氷山を溶かした水についてはこの障害は起こらない。

  しかし危険は海水や氷山だけにあるわけではない。空も同様に危険だ。空には常時稲妻が走っている。雷鳴が途絶えることはない。ステュギアの空を飛行するものは、1分間以上飛行している場合、反応セーヴィング・スロー・半減を行わなくてはならない。これに失敗すると5d6ポイントの[電気]ダメージをこうむる。難易度は機動性により異なる。完璧=10、良好=15、標準=20、貧弱=25、劣悪=30。この稲妻はこの次元の現住クリーチャーですら脅かす。彼らは安全のため低空をそろそろと飛行する。例外はもちろんある。高い機動性を有するデヴィルである。彼らが稲妻をひらりとかわして悠然と飛行する姿は時々垣間見られる。


監視者 Watchers

  この層におけるもっとも一般的なデヴィルはアイス・デヴィルと呼ばれるゲルゴンである(昆虫のような爬虫類型をした上級デヴィル)。船が到着して数分後、これらのデビルが2体姿を現す。デヴィルは近くの氷山の上に立ち、船の活動状況を観察する。彼らはゲリュオンに仕えている。そして〈冷鋼砦〉にいるゲリュオンと仲間のデヴィルに対し、海面上に潜在敵が現れたと警告を発する。彼らは《バーテズゥ招来》で〈砦〉のバルバズゥ(顎鬚を生やした下級デヴィル)かオシュルスを招来し、メッセージを託す。

  PCが水中に向かうため潜水球に乗り込もうとする時に彼らは襲来する。状況のいかんによらず、PCが到着後即座に潜水球を使用しない限り(つまりゲルゴンが着く前に)、デヴィルの1体はPCが水中に入る前に攻撃する。

  アイス・デヴィルはステュクス河の効果に耐える力を持つ。これは他のデヴィルについても同様だ。攻撃者は水に触れてもなんら害をこうむることはないが、フライ 呪文により上空から攻撃を開始する(反応セーヴ難易度は15)。水中に逃げられた場合、別の仲間に後を託して彼らは監視の任に戻る。ゲルゴンは自身の持つ戦闘能力と魔力が近接戦闘向きであることを知っている。アイス・デヴィルは死を賭してまで戦おうとしない。

  もう1体のゲルゴンは攻撃には加わらない。彼は安全な場所で監視を続け、ことの次第を主人に報告する任務についている。しかしながら、《バーテズゥ招来》を行い、キャラクターや船を攻撃しようとするかもしれない。

アイス・デヴィル(ゲルゴン) Ice Devils (Gelugons) (2体):ヒット・ポイント147;『モンスター・マニュアル』136ページ


密偵 Spies

  “ステュクス・デヴィル”として知られるアムニズゥはアークデヴィルのレヴィストゥスに仕えている。したがって、これらのデヴィルはゲリュオンには忠誠を誓っていない。“退位させられた公爵”の懸命の努力にもかかわらず、レヴィストゥス大公は〈冷鋼砦〉を発見しており、そして彼の配下にあるアムニズゥを派遣してこれを見晴らせていた。彼らは〈砦〉とその入口がこの下にあることを知っている。しかし彼らは〈砦〉がネヘオド寺院を捕らえている事までは知らない。3体のステュクス・デヴィルは付近の氷山の隠れ家からこの付近を常時監視している。

  奇妙なことであるが、これらの悪しきクリーチャーは現実主義者であり、PCがゲリュオンの計画を止めるつもりであるなら、彼らは物質界から来た侵入者を支援する(冒険者たちがそれを達成するかしないかは別として)。しかしながら、彼らはその支援を密かに行おうとする。そこで彼らはディスガイズ・セルフ を発動するかパーシステント・イメージ を発動する。例えば、彼らは上方次元のクリーチャーが船上に現れる幻術を作り出すかもしれない。

     「アークデヴィルのゲリュオンが、この真下に、水底に要塞を築いている。氷山の洞穴を探せ。そなたらは急がねばならぬ ‐ 罪なき者が残忍な拷問にかけられているのだ!」
     “Geryon the arch-devil has a fortress down below the water. Look for a cave in the ice. You must hurry. Innocents are being tortured!”

その後、セレスチャル・クリーチャーはテレポート したかのように振る舞い、幻術は姿を消す。もちろんPCが幻術を受け入れて話を続けるなら、アムニズゥは幻術を維持して情報交換を行う(アムニズゥは寺院にいるデヴィルの情報を提供する。彼らはPCがなぜここに来たのか、何が目的かを探ろうとする)。彼らはPCが疑問をいだくほど長くこの場にとどまろうとはしない。

  もし看破され攻撃を受けるなら、アムニズゥはためらうことなく自衛のためPCを殺そうとする。

アムニズゥ Amnizu (3体):ヒット・ポイント49;『魔物の書U』115ページ


果て無き地獄海への潜水 Diving into the Infinite Sea of Perdition

  彼女らがネヘオド寺院に到達するには、〈冷鋼砦〉を通過しなくてはならない。つまりのところ、PCはステュギアの凍てつく海に入らなくてはならない。デーモンウィング号 の潜水球を使うことは適切であり、もっとも安全な手段だろう。PCが水に触れることなく移動する手段を持つなら、独自の方法を用いてもよい(フォースケイジ の中に入りウォーター・エレメンタルに運ばせるなど)。

  ステュギア海での遭遇は、潜水球を用いても致命的な危険を持つ。DMは毎分1回、以下の任意遭遇表をロールするか(1d20)、選択しろ(ワーシャークとの遭遇は面白いかもしれない):

01〜05遭遇なし
06〜093d10体の大型シャーク
10〜144d10体のサフアグン(とリーダー)
15〜172d6体のダイア・シャーク
181d2体のメガロドン
19ロール2回の合計
20ワーシャーク

大型シャーク Large Sharks ヒット・ポイント38;『モンスター・マニュアル』271ページ

サフアグン Sahuagin ヒット・ポイント11;『モンスター・マニュアル』82ページ

サフアグン・リーダー Sahuagin Leader (レンジャー4):ヒット・ポイント37

ダイア・シャーク Dire Sharks ヒット・ポイント147;『モンスター・マニュアル』124ページ

  シャーク、メガロドン、サフアグンは近くに存在するセコラの領地、シェイルースクから泳いできたものだ。この神格はステュクス河の効果に対する完全耐性を信者に与えることができる。彼らは見つけたものは何でも狩り出す。この近くで泳いでいるデヴィルは極めて少ないからだ。最近、デヴィルは血まみれの肉片 ‐ 彼らが戦いで殺した死体 ‐ を数多く捨てた。これにより、シャークとサフアグンはまもなくお楽しみが始まるのではないかと期待している。彼らは遭遇したものを何でも攻撃する。

 

メガロドン Megalodons ヒット・ポイント300;『モンスター・マニュアルU』163ページ

  これらメガロドンは物質界のシャークとはまるで異なっている。それらはPCの乗る潜水球を丸飲みすることができる顎を持っている。それらは実のところ動物ではない。セコラの神力を受けて強大化した魔獣だ。それらは肉を食べる必要がない。しかし好奇心や悪意から潜水球を飲み込むかもしれない。巨大クリーチャーに飲み込まれた場合、PCは潜水球の外に出ることができる(メガロドンの内側に入ることで、ステュクス河の効果は失われる)。彼女らは潜水球を解放するため、PCはテレポート や類似効果、または内側から魔獣を攻撃しなくてはならない。

  自身を守るため、クリーチャーは体内に5d10体のサフアグンを乗せている。これらの怪物は[酸]への完全耐性を与えられており、飲み込まれたPCを攻撃する。もし斬撃ダメージか刺突ダメージで食道(AC20)に25ポイント以上のダメージを与えたなら、脱出するだけの隙間を作ることができる。しかしその時、潜水球の外にいたならステュクス河の水にさらされることに注意しろ。

 

ワーシャークのヴェーン Vehn, Wereshark ヒット・ポイント300;『フェイルーンのモンスター』89ページ

  この遭遇を起こすのであれば、最適な場所はPCがまだデーモンウィング号 の主甲板にいる間だろう。ワーシャーク(名前はヴェーン)は肉と卵を盗んだ罪でセコラの領地より逃亡してきた、今や神格の下僕に追われる追放者である。ヴェーンはステュクス河の水に完全耐性を持つ。もし彼がPCか船を見つけたなら、彼は人間形態をとり、そして記憶を失った人間の冒険者のふりをする。ワーシャークが人間形態をした場合、身長7フィートで、波打つ筋肉と滑らかな肌をしている。彼の左眼はえぐられ存在しない。そして彼の顔は傷だらけだ。彼は装備を何も持っていない。

  ワーシャークはキャラクターの救助に感じ入ったふりをして、彼女らに自分にできる限りの手段で援助を申し出る。DMは地獄で出会ったキャラクターが信頼可能であるかどうかについて、ディテクト・イーヴル を用いたからといって簡単に解決しないことを忘れるな。ヴェーンは記憶喪失という嘘を保とうとするが、“救助者”に対して若干の情報を与えようとする:彼女らが航海している海が底なしであること、比較的最近に新たな邪悪の城塞が建てられたこと、そしてそこがどこか別の場所につながっているということをである。

  ヴェーンはデヴィルでいっぱいの城砦に潜入するなどごめんだと思っている。彼はPCが彼を船に残しておいてくれることを期待している。ここならば彼の死を求めるものから安全な隠れ家となるだろうからである。しかしながら、もし強制されたなら、ワーシャークは変装を解くよりもPCに同行する。彼は冒険者仲間としての保証を求める。この場合、ヴェーンは自身が戦士であるかすかな記憶が残っていると申し立てる。そして彼は少なくとも自衛ができるように、武装を整えたいと希望する。

  もしPCがあまりに弱そうであるなら(例えば、彼女らが全員傷ついていて、そのためくみしやすいと思えるなら)、ヴェーンは彼女らを攻撃するか、あるいは彼女らを対価にしてデヴィルに投降するだろう。ワーシャークは食欲本能に負けた場合も裏切るかもしれない(誰かがダメージを受けた場合、意志セーヴ難易度15を行い、失敗するとその者を攻撃してしまう)。さらに、キャラクターが彼と長い時間をかけてつきあっていくにつれ、彼が横柄かつ残酷な性格であることがわかるかもしれない(秩序にして悪)。


〈冷鋼砦〉 Citadel Coldsteel

  ゲリュオンはネヘオド寺院がこの層の底に現れる事を事前に知り、最適な位置にこの要塞を設計建設した。彼は建設を完成すると、秘密裏に軍勢を召集した。

  〈冷鋼砦〉は船のそばに浮かぶ氷山の中に横たわっている。しかしその入口は水面のはるか下に位置している。ここは魔法の転移によりネヘオド寺院が送り込まれる場所の直近に位置しており、唯一そこにたどり着ける場所にあった。ほとんど例外なく、〈冷鋼砦〉を建設した邪悪な存在は壁、床、天井、扉といったすべての部分を精巧な細工を施された鋼板で作り上げた。粘液に覆われ、古び、錆びついたアビスのデーモンウィング号 とは対照的に、デヴィルの要塞は外科医のメスのように新しくピカピカで、病的なほどに清潔だ。

  〈冷鋼砦〉にはPCが利用可能な出入口が3ヶ所存在する。それらのうち2つは氷の洞窟にあり、水の満ちた氷壁にそれぞれ設けられている。これらの出入口は、第1階層のマップに記された主要門と秘密の出入口である。第3の出入口は、より深い位置にある氷の洞窟に設けられている。この曲がりくねり水の満ちた通路は上方に向かい、最終的に第2階層25区画に到達する。この氷山を調査するキャラクターは、水深250〜350フィートまで潜った段階で〈視認〉判定を行うことにより、難易度30に成功することで主要門に到達する通路を発見することができる。水深350〜400フィートに到達した段階で〈視認〉判定を行い、難易度30に成功することで第2階層に至る通路を発見することができる。

  特に記されていない限り、〈冷鋼砦〉の第1階層の天井は40フィートであり、第2階層と第3階層はそれぞれ30フィートである。巨大な氷の内部に位置することから、要塞内の空気は驚くほど冷たい。この寒さはデヴィルでさえ震え上がるほどだ(ゲルゴンだけは九層地獄の他の層より好むだろうが)。寒さに対して無防備なキャラクターは、要塞の上部3階層において「冷気による危険」(DMG303ページの華氏40度以下の項を参照)をこうむる。第4層は寒くはない。〈冷鋼砦〉のこの部分は実際のところ氷の中にあるわけではないからだ。ここはステュギアとマーレボルジェの境界を占める部分に位置している。


冒険の長期化 Long-Term Adventuring

  もしキャラクターが〈冷鋼砦〉から撤退するか、あるいは呪文使用回数回復のために休息するか、あるいは要塞最下層のネヘオド寺院に突入したあとに〈冷鋼砦〉内に撤退するのであれば、彼女らはゲート もしくはグレーター・テレポート で参集させられたデヴィルにより、戦力の50%が補充されていることに気づくだろう(DMの裁量)。PCの到着時、〈冷鋼砦〉には(アスモデウス自身が送り込んだ)増援が到着している最中だった。このため、シナリオ中で〈冷鋼砦〉に配置されたデヴィルは定数を満たしているわけではない。PCは可能であるという理由だけで、この地獄の要塞を自分たちで管理しようとは考えるべきではない。彼女らは任務を達成した後、可能な限り早急にここを離れたいという欲求に駆られるだろう。


終末時計とデヴィルシード The Apocalypse Clock and the Devilseed

  ゲリュオンは〈冷鋼砦〉の様々な区画の壁に、大きめの時計を作り付けている。時計は鋼で作られ、円形の時計文字盤には冷気に包まれた黒いドクロのマークが置かれている(頂上のドクロは赤い)。文字盤上では1本の針がゆっくりと動いている。それは黒い鉤爪が握る邪悪な剣を模している。時計はやかましく、そして不吉にカチカチと鳴っている。これらすべての魔法の時計は同調している。そのように正確に刻まれる時計という存在はPCにとって珍しい存在だろう。彼女たちにわかることは、文字盤上に赤いドクロがあること、そして手にもたれた剣が徐々に動き、やがてそこに重なるまでの秒読みを刻んでいることだけである。

  DMはゲーム内時間の経過を記録すべきだ。それは区画の攻略にあわせて追跡する必要があるだろう。PCが到着した時点から300分=3000ラウンド=5時間で、第4階層35区画のデヴィルシードは解放されることになる。解放の時が来ると、魂殻の落ちる穴へと続くポータルが開き、大量のレムレー ‐ 苦痛にもだえ苦しむ最下級デヴィル ‐ が押し寄せてくる。これら醜いクリーチャーは、指定された時間にポータルを潜り抜け、スウォームとなって寺院に襲い掛かり ‐ ゲリュオンの目論見どおりなら ‐ すべてを蹂躙する。これはアークデヴィルの最終手段である。これを行うことにより、穴を監視している他のアークデヴィルに自らの策略をさらすことになるからだ(誰もがレムレーの穴を監視している;邪悪な“軍勢”の大量使用を隠し続けることはできない相談だ)。

  時計の針が赤のマークに到達するなら、寺院の状況は最悪のものとなるだろう。レムレーは強力ではないかもしれない。しかしその数は膨大で、長時間その殺到を押し止めることは誰にもできないことだ。

  しかしながら、悪賢いPCはこの最終啓示をごまかす方法を見つけることができる。それぞれの時計に対して〈捜索〉判定難易度35に成功することで、ごく小さな鍵穴があることがわかる。もし時計の鍵をいずれかの時計に挿入するなら、針の位置を調整することができる。時計は同調しているため、1つを調節することで残りの時計すべてを調節することが可能だ。攻撃は最高1000分間=16時間40分まで延期させることができる(時計に設定可能な最大時間)。時計は鍵がなくては調節することはできない。しかし〈解錠〉難易度35に成功することで調節することができる。しかし失敗した場合、6d6ポイントの[電気]ダメージをこうむる(セーヴ不可)。時計の硬度は10、ヒット・ポイントは100、破壊難易度は30だ。しかし時計のひとつを破壊しても他の時計には影響を与えない。

  終末時計が下げられている部屋における音声構成要素を持つ呪文の発動には、難易度25+呪文レベルの〈精神集中〉判定を必要とする。また[言語依存]、[音波]の補足説明を持つ効果、または類似した能力については効果範囲が従来の半分となる。終末時計の騒音は〈聞き耳〉および聴覚に関する判定に−20状況ペナルティを与える。また特に“音響によらない”と指定されていない擬似視覚能力や非視覚的感知能力、振動感知能力を阻害する。


〈冷鋼砦〉 第1階層:見張りと秘密 The First Level: Guards and Secrets

  DMは第17区画の注釈に注意しろ。なぜなら空中回廊はほとんどの部屋に通じているからだ。DMは常に、PCがどこの部屋にいるとしても空中回廊にいるデヴィルに攻撃の機会があることを忘れないようにしろ。空中回廊を移動する際は20%の確率で任意遭遇が発生する。またいずれかの部屋で戦闘が始まった場合、50%の確率で任意遭遇のクリーチャーが増援として加わる。PCが遭遇するだろうパトロール隊については第17区画を参照しろ。

  もしPCがフィーンドに知られることなく、この階層のデヴィルとすれ違うことができたなら、彼女らはデヴィルたちの会話を立ち聞きすることができる。もし彼女らが地獄語を理解できるのなら、PCはここ数日の戦いについての話を聞くことができる。ここで特に重要なのは、デヴィルの発言である。

     『俺はあのパラディンともう一度やりあうなんてごめんだぜ』
     "I certainly do not want to have to face that paladin again."

 

1.氷の洞窟 The Ice Caves7.兵舎 Barracks13.秘密の通路 Secret Passage
2.減圧式出入口 The Entrance/Airlock8.貯肉庫 Meat Storage14.ゲリュオンの妻 Geryon's Consort
3.秘密の入口 Secret Entrance9.拘禁室 Holding Chamber15.沈黙の守護者 Silent Guardian
4.外部防御陣 Outer Defenses10.下り階段 Stairs Down16.交霊礼拝堂 Chapel of Communion
5.指揮官室 Leaders' Quarters11.アモンの犬舎 Amon's Kennel17.空中回廊 Upper Walkway
6.集合所 Mustering Area12.アモンの部屋 Amon's Quarters


第2階層:地獄の機械装置 The Second Level: Infernal Devices

18.上り階段 Stairs Up21.未完成の部屋 Unfinished Room24.兵器庫 Armory
19.警戒者 Guards22.エレベーター Elevator25.ステュクス水の水槽 Styx Water Supply
20.エレベーター制御装置 Elevator Mechanism23.戦車 Engine of War26.ブラウン・モールド蓄積庫 Brown Mold Supply
20A.メイレファント Maelephants


第3階層:〈冷鋼砦の心臓〉 The Third Level: Heart of Coldsteel

  ゲリュオンは〈冷鋼砦〉のこの階層に自室を設けた。それゆえここはしばしば〈砦の心臓〉と呼ばれる。

27.降着地点 Landing30.ゲリュオンの評議室 Geryon's Council Chamber33.牢獄 Main Prison
28.客殿 Reception Hall31.顧問の部屋 Advisors' Chamber34.凍結した穴 The Freezing Pit
29.ゲリュオンの部屋 Geryon's Chamber32.牢獄の入口 Prison Entrance


第4階層:攻城戦 The Fourth Level: The Siege

  この階層に到着したものは誰でも、上層にはあった冷気がなくなっていることに気づく。しかし九層地獄特有の陰鬱な特質はそのままである。

35.降着地点 Landing37A.守衛 Gatekeeper39.遊撃戦 Side Battle
36.守護者 Guardian38.戦場 Battlefield40.空っぽの部屋 Empty Chambers
37.守衛詰所 The Gatehouse