第三章:冥王星


  999、正常な空間へ出る。

車掌「あ……時間がとり戻せましたよ。予定通り次の駅へ着けます!!」

  メーテル、鉄郎、座席につく。

  列車、空間をひた走る。

メーテル「鉄郎がこの列車へ乗りたかったのは、お母さんの復讐をするため? そのために機械の体になるの?」

鉄郎「それだけじゃない……約束だからいつかしゃべるけど、今はまだ言いたくない……」

メーテル「そう……」

  列車、ひた走る。

  いつか、メーテルは眠る。鉄郎、ふと夢を見る機械をメーテルにセットしたくなる。そっとメーテルの頭に近づけるが思いなおしてやめる。

  鉄郎、夢を見る機械を窓から捨てる。それは空間のバリヤーを火花をたてて通りぬけ、はるか宇宙の星の海へ消えてゆく……。

  メーテル、目をさます。

鉄郎「アンタレスは、まだしたい事があるのに時間がないといっていた……機械化人の支配する世界では生身の体だとどうしても時間切れになってしまう……アンタレスも機械の体になっていれば、まだまだいろんな事が出来たのに……機械の体は人間の夢を果たすためにあるんだともいえる……必ずしも悪いことじゃないとも……」

  メーテル、とても悲しそうな顔をする。

  車掌、現れる。

車掌「次の停車駅は冥王星。停車時間は六・三日」

  鉄郎、窓の外を見る。はるかに近づいて来る冥王星が淡く幻のように青白く輝いている。

  999、その冥王星へと進んでゆく。

  じっと冥王星を見るメーテル。とても悲しそうな表情。鉄郎、少し気になる。

メーテル「鉄郎……冥王星が迷いの星っていうのを知ってるわね」

鉄郎「知ってるよ。太陽系の一番はずれの星だものな、あそこは……そこから先へ出て無事に帰れるかどうか、みんな迷うんだそうだ」

メーテル「淋しい所よ」

鉄郎「俺は平気だよ。こんな所で迷ってちゃ何も出来やしない!!」

  鉄郎、胸をたたく。しかし、寒さにふるえ上る。

鉄郎「車掌さん、寒いよ。ヒーターの故障じゃない?」

車掌「ここへ来るといつもこうなんです。どんなにヒーターを働かせても寒さをふせぎきれません」

メーテル「冥王星の氷は宇宙が出来て以来、一度もとけたことがないみたい」

  列車、冥王星の青い氷の上に自らの影を映して鏡の上に降りるようになめらかに着地する。そそり立つ氷の山、白い凍結した氷の都。

 

  その凍った町を、人々はうす着の夏服のような姿で歩いている。

鉄郎「機械の体は内部にヒーターがあるから平気なんだな。機械の体は便利だなぁ」

  白い氷のホテルの前、メーテルと鉄郎立ち止まる。

メーテル「鉄郎、私は少しする事があるから先にホテルへ行ってなさい。それから……」

鉄郎「それから?」

メーテル「決して町の外へ出ちゃだめよ、町の中は安全だけど」

鉄郎「銃があるから大丈夫だよ」

  メーテル、鉄郎と別れて街角に消える。

  鉄郎、見送る。

  鉄郎、ホテルの部屋へ入るが、面白くない。トランクをほうり出すと屋上へ上ってみる。

鉄郎「ここからだと町の外まで見える……!!」

  遠くはるかに地平線が光る。ふと、鉄郎の視線がくぎづけとなる。

  メーテルがひとり町の外へ出てゆくのだ。

鉄郎「メーテル……!!」

 

  氷の上をゆくメーテル、まっすぐ前をみつめて思いつめたように歩いてゆく。

  広い氷原の上……やがてメーテルは立ち止り、じっと氷の下を見つめる。

  両手をつき、首をうなだれる。メーテルの目に涙、じっと悲しみに耐えているよう……。

  鉄郎、氷の小山のかげから見ている。油断なく銃をにぎりしめている。

  鉄郎、足元を見て驚く。氷の下に並んだ人の姿。

  果てしなく果てしなく、氷原のメーテルの下にまでつづく無数の眠る人々の列。無慮(ムリョ)数万人。

鉄郎「死体か……なんという数だ……」

  鉄郎の後ろに近よる女の影。鉄郎、気がつき銃をかまえる。

鉄郎「だれだ!!」

シャドウ「ここは墓場ですよ……星全体が凍りついた大きなお墓……」

鉄郎「きみは誰だ? ここで何をしているんだ?」

シャドウ「私? 私はシャドウ……氷の墓地の管理人よ」

鉄郎「管理人?」

  シャドウ……影のような無表情な女。青白い肌の色、黒い髪、幽霊のような美しい女。

鉄郎「そんなかっこうで……ああそうか、君は機械の体なのか!!」

シャドウ「ええ……でも、ここではよく体内ヒーターも故障するわ……ヒーターが止ったらすぐ凍りついておしまい……」

鉄郎「この人たちは……」

シャドウ「病気で死んだ人や、ここで機械の体にかえて元の体をおいていった人たちのぬけがらの眠るところ。それが冥王星……」

鉄郎「ぬけがら……」

シャドウ「私の体はあそこにあるわ……ここで機械の体になってよそへ行ってみたけど……元の体がなつかしくてね。一生……何千年でも元の体の側にいたくてね。ここへもどって管理人になったのさ……」

  シャドウの指さす氷の中にひときわ美しく花のように眠る女の姿。

  みとれる鉄郎。

  そっと近より鉄郎を抱くシャドウ。

鉄郎「う……なんてつめたい手なんだ!! 凍るようだ。体が……体が……」

シャドウ「私が手をにぎってあげるとその人の体温はなくなってしまう……」

鉄郎「なに!!」

  鉄郎、手を銃にのばすがかじかんでつかめない。

シャドウ「やめなさい。あなたの手にはもう感覚がないわ……私は淋しいのよ、一人でも多く私の体の側で眠る人がほしい」

  くずれおちる鉄郎。

シャドウ「そう……昔の私は、きれいだった……機械の体では、しょせん作ることは出来なかった……だからどんな顔にしても満足できないから……とうとう顔をつくらなかったわ……だから人はこういうの、迷いの星のシャドウ……ってね」

鉄郎「畜生!!」

シャドウ「おやすみ鉄郎、おやすみ永遠にね、私の体の側で……」

  ゆっくりゆっくり向うからメーテルが近づいてくる。

  シャドウをにらみつけ、メーテルが来る。

メーテル「やめなさいシャドウ、あなたは自分で進んで機械の体に変った……淋しいからといって人をみちづれにするのはいけない事だわ……あなたは元の体にもどる勇気もない……永遠の命か……限りある命か、そのどちらかを選ぶ勇気もない……」

シャドウ「……メーテル……」

メーテル「さあ鉄郎から手をはなしなさい……」

  怒りに燃えたメーテルの目。

  たじろぐシャドウ……。

  長い柄のついたカマでメーテルに立ち向おうとするが体がすくんで動けない。

  メーテル、鉄郎を起こす。

メーテル「あの人は永久にここで氷のお墓の番人をしてゆくのよ……自分のお墓の……」

鉄郎「いやな役目だな」

メーテル「大切な役目かもね……いつか機械の体にあきた人たちがここへもどって来て、元の体に生き返る時が来るかもしれない……ここに体が眠っている人たちは、機械となって体を失ってしまった人たちよりは、まだ幸せかもしれないわ……」

鉄郎「シャドウもいつか元の体にもどる決心をするのかな……」

 

  列車の中。

鉄郎「ははは、でも機械の体がいいか元の体がいいか迷うなんてだらしがないぞ。一度決心したら変えないことだ。迷うくらいならはじめっからやらなきゃいい!!」

  車掌、なぜかバツの悪そうな顔をしている。

メーテル「ここは鉄郎にとって迷いの星じゃなかったみたいね」

鉄郎「俺はいつかこの日が来ると夢みていた。どんな事があってもくじけるものか!!」

  汽笛が鳴る。


車掌「次の停車駅はトレーダー分岐点……惑星ヘビーメルダーのトレーダー分岐点。停車時間は十三日と十三時間十三分十三秒」

  999、ゆっくり上昇する。

  メーテル、窓外の氷の平原を見てとても淋しそう。

鉄郎「メーテル……」

メーテル「え?」

鉄郎「さっき氷の下で何を見てたんだい?」

メーテル「……見てたの……」

鉄郎「あんな悲しそうなメーテル見た事ないぜ」

メーテル「ここは宇宙で一番悲しい所だものね……氷の下の人々をみてたら涙が出るのよ……」

鉄郎「それだけかい?」

メーテル「そうよ……それだけ……迷いの星は宇宙で一番悲しいところ……多くの人がここに体をおいて遠くへ旅立った悲しい星、いつの日か……自分の体がなつかしくなって帰って来るという星……私はここへ来るのが一番つらい……」

  果てしなく続く氷の下の人々。999、はるかにはるかに氷原に影を映して上昇してゆく。

  きれぎれに汽笛が尾をひいて消えてゆく。

  吹きぬける風にすそをなびかせたシャドウ。自分の体の側に立ちつくして999を見送っている。

  鉄郎、眠ったふりをしてメーテルを見る。

  メーテル、じっと遠ざかる冥王星を見て涙を流している。

  星の海をゆく999。

  いつか本当に眠りにおちる鉄郎。

  軽いガラスのふれあう音が通りすぎてゆくので目がさめる。

  キョロキョロするが誰もいない。ちらっとドアが閉まるのが見えて、キラキラ輝くものが向うへ消える。

 

メーテル「食堂車へ行きましょうか鉄郎」

鉄郎「えーっ、そんなものがあるのか!!」

  鉄郎のお腹、グーッとなる。

  銃をつかんで立ち上がる。

  メーテル、笑う。

メーテル「列車の中は安全よ、いらないわ」

鉄郎「絶対安全って事は宇宙ではないってきいてる。笑われてもいい、俺は銃をはなさないよ」

メーテル「そう……あなたはハーロックみたいな放浪の戦士になる素質があるのかもね……」

  二人、食堂車へゆく。

  ヨーロッパ風のデラックスな内装の食堂車。

  二人、席に着く。

メーテル「何をたべる?」

鉄郎「………」

  メニューを見て、鉄郎、深刻な顔をする。

  バタンとおく。

鉄郎「メニューを見る食事などしたことがない。何がなんだかわからないんだ」

  鉄郎、ふてくされる。母と二人で食べた荒野での夕食のシーンが浮ぶ。

メーテル「ビフテキがいいわね、あなたには」

  メーテル、手を上げる。

クレア「おきまりですか?」

  ウェイトレス、近づいて来る。

  鉄郎、おおいに驚く。

  それはガラスのクレア。クリスタルガラスの透明な体をもった少女。

鉄郎「ガラスかな……?」

メーテル「ビフテキ二つ……焼き方はミディアムウェル、そうコーンスープもね、私はパン。鉄郎は?」

鉄郎「めしが食いたい」

クレア「かしこまりました」

鉄郎「しかし、まさかガラスでは……いやもしかしたら硬化テクタイトかな……」

クレア「私の体はクリスタルガラスです」

鉄郎「ガラス」

  クレア、微笑する。

メーテル「あなた、アルバイト?」

クレア「はい」

メーテル「お名前は?」

クレア「クレアです」

鉄郎「………」

クレア「私のお母さんは見栄っぱりで、私の体をこんなガラスにしてしまいました。だから私はここでアルバイトをしながらお金をためて血の通った体を冥王星で買いもどすつもりです」

鉄郎「冥王星で……じゃ、きみの体もあの氷の下に……」

クレア「ええ……時々仕事の途中冥王星で降りて、昔の体をながめて、又列車に乗るの」

鉄郎「なぜ……そんなに綺麗なのに……」

クレア「ありがとう……でも私の体はガラス……光も影も私の体を通り抜けてしまいます。それが私はとてもさびしい……あなたのように影の出来る体になりたい……」

  メニューを渡した拍子に鉄郎の手がクレアの手にふれた。

クレア「あなたの手は暖いわ、鉄郎さん」

鉄郎「………」

  鉄郎、赤くなる。

  突然、列車内の灯が消える……まっくら。

鉄郎「これじゃ、くえないぞ」

  車掌、とんで来る。

車掌「申し訳ありません。正体不明の船が平行して飛んでいますのでね……ここらは危険なのです」

メーテル「鉄郎、太陽系をはなれたらもう法は空間レールの上だけにしかないわ」

  その時、ポッと車内に灯がつく。

  クレアの体が光って浮び上る。

クレア「私の体内エネルギーの震動を強くして電灯のかわりになってあげます」

鉄郎「ホタルみたいだ」

クレア「そうですよ……でもこうすると少しだけど体があたたまるんです……」

  鉄郎、見とれて食事どころではない。

  ズズズズズ……無気味な震動が列車につたわって来る。

鉄郎「なんだい?」

メーテル「巨大な重力エンジンを積んだ船が近くにいるわ」

  ヴーーン、ヴーーン、車内に警報がなる。

車掌「あれ……あれは……!!」

  巨大な飛行船のような影が列車に平行してとんでいる。

  そして車内に女の声がひびきわたる。

エメラルダス「私はエメラルダス、針路を横切ります。999号は速度を落しなさい」

  ズズズ。列車にブレーキがかかる。

  クイーンエメラルダス号、ゆっくり前方を横切ってゆく。

鉄郎「エメラルダスだって!? あれがエメラルダスのクイーンエメラルダス号か!!」

車掌「列車を襲うつもりはないらしい……よかった!!」

  他の車両にどよめきが起こる。冥王星から乗った乗客たちが襲撃されないことを知って安堵(アンド)の胸をなでおろしていたのだ。「やってくりゃやっつけてやったのに」などとからいばりをしている乗客もいる。

鉄郎「なぜ襲わないんだ。エメラルダスは海賊だろう? なぜだまっていってしまうんだ」

メーテル「あなたはエメラルダスに会いたいの?」

鉄郎「ああ、アンタレスは機械伯爵のいる所を知っているっていった!!」

  クイーンエメラルダス号、999の針路を右から左へ横断する。

  赤い血に白い髑髏(ドクロ)をそめぬいた標識が船体に見える。

  はなやかにして不気味な女海賊の船だ。

鉄郎「エメラルダス!! 聞きたい事があるんだ。まってくれ!!」

  鉄郎、通路を前方へはしる。車掌、とめようとするが、つきとばされてころぶ。

  鉄郎、デッキのドアをあけようとするが、あかない。

  銃をかまえるとガラス窓ごしにエメラルダス号をねらう。

  VOS!! ぶっぱなす。

メーテル「!!」

  他の乗客も総立ちとなる。

  鉄郎のはなった光線、フーっとのびて船体で光る。

  ズズズズーー突然、船が速度をおとし平行しながら近よってくる。舷側いっぱいにイルミネーションのように灯が燃えはじめた。

  ズドドドーーン、列車にクイーンエメラルダス号が接舷した。窓ガラスが割れふきとんだ。

  強がりをいった乗客もふるえ上る。

乗客「あのガキ、何てことをしてくれたんだ!!」

  ドアが爆破される。……

  車内、水を打ったように静か……。

  コツコツコツ……乗り移って来る足音……。

  真紅の服に身をつつんだ、それは女海賊エメラルダス。胸とひたいに白い髑髏をつけ、輝く双の目で車内をにらみつける。

  腰には長い重力サーベルを吊っている。

エメラルダス「私の船を撃った者は名乗り出なさい」

  乗客の一人、鉄郎を指さす。

鉄郎「俺だ!! 俺が撃った!!」

  鉄郎、エメラルダスの前に立つ。

エメラルダス「おまえが? おまえは賞金かせぎか? 私に銃をむけて無事にすむと思っているのか?」

  エメラルダスの右手、サーベルを引き抜く。

  鉄郎の手、反射的に銃を抜こうとするがまにあわない。

  ズヴォォォ……!!

  一撃でうちたおされる。

エメラルダス「ふん……珍しい人もいるものね。私に本気で立ち向う男がいるとはね……よほど勇気がおありなのか……それとも命のおしくないおろか者か……」

  エメラルダス、ふと鉄郎の手からとんだ銃を見る。

エメラルダス「!!」

  エメラルダス、ひろい上げる……その目がキラキラ輝く。

エメラルダス「これはおまえの銃か? おまえはこの銃をどこで手に入れた?」

  おそろしい見幕で鉄郎のノドもとに重力サーベルの発射口をつきつける。

鉄郎「タイタンでおばさんからもらった……帽子といっしょに……たしかに俺のものだ、返せ!!」

エメラルダス「帽子……」

メーテル「これよ、エメラルダス」

  メーテル、鉄郎の帽子をもって立ち上がる。

エメラルダス「!!」

  エメラルダス、帽子と銃と鉄郎を見くらべる。

エメラルダス「この帽子や銃を昔もっていた人は、どこへ行ったの?」

鉄郎「二度と生きては帰らない所だって……ただそれだけだ」

エメラルダス「そう……それであなたがもらったわけ……」

  そう言うと、エメラルダスは銃と帽子を鉄郎に返す。

  エメラルダス、鉄郎の首の髑髏のペンダントに気づく。エメラルダスの目、キラリと輝き鉄郎をみつめる。

エメラルダス「今度撃つ時は私を殺せる時に確実に撃ちなさい。一度撃って相手をたおせなかったら、あなたが死にますよ。本物の戦士を相手にする時は覚悟がいるものよ」

  エメラルダス、身をひるがえして出てゆく。

鉄郎「まってくれ、ききたい事があるんだ!!」

  鉄郎、おいすがる。

  乗客、ハラハラしている。鉄郎、デッキでおいつく。

エメラルダス「聞きたいこと?」

鉄郎「機械伯爵はどこにいる。知ってたら、教えてくれ」

エメラルダス「機械伯爵の居場所を聞いてどうするの?」

鉄郎「あいつは母さんを殺した!! だから……!!」

エメラルダス「……あなたが殺そうというの……機械伯爵を……」

  エメラルダス、あきれて鉄郎を見る。

  鉄郎、燃えるような目でエメラルダスをにらみつける。

鉄郎「おかしいのか!! やろうと思ってやれない事があるか!! 俺はそのために宇宙へ出たんだ!! 列車にのったんだ!! 時間がたりなきゃ、機械の体になってでもあいつを追って、宇宙の果てだってどこへだっていってやる。俺のやる事はまず伯爵を殺すことだ、それから……」

エメラルダス「やりたい事がたくさんおありのようね、あなたには……」

メーテル「知ってるなら、教えてあげて……」

エメラルダス「メーテル……元気?」

メーテル「ええ……あなたは?」

エメラルダス「この通りにね、少し淋しいだけ。あなたには連れがあっていいわね、メーテル」

  親しげな二人の会話に鉄郎、あっけにとられる。

メーテル「体に気をつけてね、エメラルダス。いつかきっと、あの人は見つかるわ、きっと……」

エメラルダス「ありがとう、メーテル。あなたはいつもやさしい人ね」

  エメラルダスとメーテル、肩を抱いて話す。まるで、長い別離にあった姉妹が再会したようでもある。

エメラルダス「機械伯爵は、ヘビーメルダーのトレーダー分岐点にいるわ」

鉄郎「トレーダー分岐点? だったら次の停車駅じゃないか!!」

  鉄郎、こぶしを握りしめて喜ぶ。

鉄郎「畜生!! 畜生!! とうとうあいつを見つけたぞ。あいつを!! 俺はあいつの所へゆく。夢にまで見続けた、あいつの所へゆく……畜生!! 母さん!!」

  エメラルダス、何も言わず、船へ帰ってゆく。

  クイーンエメラルダス号、ゆっくり999から離れてゆく。

  赤い血に髑髏が遠ざかる。

エメラルダスの声「さようなら、鉄郎。機械伯爵と戦うなら時間をかせぎなさい。勝てる時が来るのをまって挑戦しなさい。いつか必ず機会が来るもの……たったひとつの限りある命を大切にしなさい」

  声を残してクイーンエメラルダス号、消えてゆく。

メーテル「エメラルダスは、あなたのその銃と帽子の持主をさがしているのよ」

鉄郎「え、じゃ、タイタンでおばさんが言っていた息子というのは!!」

メーテル「そう……エメラルダスが身も心も……命までも捧げた最愛の人……」

  車内、やっと灯がつく。

クレア「車掌さん、私はこの列車がトレーダーへ着かないほうが、鉄郎さんのためにはいいと思います……」

車掌「機械伯爵を知っているのか?」

クレア「知っています。どんな恐ろしい機械人間か……あの伯爵にたちむかって勝った人は一人もいません……」

  列車ゆく。

  鉄郎、夢中で銃をみがいている。ふと、じっと自分をみているメーテルに気がつく。

鉄郎「メーテル……機械伯爵と戦って、もし俺が死んでも怒らないでくれ……一生懸命やるつもりだけどあいつには、手下も大勢いるし……」

  メーテル、めずらしく目を大きく見開いて鉄郎をにらみつける。

メーテル「戦う前に負けて死ぬことなど考えないで!! 一度や二度負けてもいい、歯をくいしばって生きぬいて、あなたの信念をつらぬきなさい!! 限りあるたった一つの命を大事にしなさい鉄郎!!」

  鉄郎、びくりとする。

  メーテルの目には涙がいっぱい光っている。

鉄郎「………」

  鉄郎、首うなだれる。

メーテル「死んだら何もかも終りよ。生きて還ってこそ未来があるわ……私はそう思うの、だから絶対死なない……」

鉄郎「……さっきのメーテルの顔……まるで死んだ母さんみたいだった……まるでそんな気がした。まるで母さんにしかられてるみたいだ」

メーテル「お母さんに……そう、あなたのお母さんにね……」

  メーテル、元のおだやかな表情にもどって淋しく笑う。

鉄郎「俺……マザコンかなあ……メーテルの中に母さんの影を見るなんて……」

  空間を列車は走る。


プロローグ 第一章:
旅立ち
第二章:
タイタン
第三章:
冥王星
第四章:
トレーダー分岐点
第五章:
終着駅惑星メーテル
エピローグ 図書館へ