第四章:トレーダー分岐点


  はるかに、惑星ヘビーメルダーが見えてくる。

ナレーション「トレーダー分岐点……それは、あらゆる空間軌道が一点に集っている、宇宙の一大分岐点なのだ。行くもの帰るもの、ありとあらゆる旅人や商人……無法者でごった返している。この星自体が未開の開拓地のひろがる、活気にみちあふれたフロンティアである。昔、多くの男たちが自由の天地を求めてここへ来て、ある者は死に、ある者は見知らぬ世界へと、また、旅立って行った……」

  巨大な惑星ヘビーメルダーが眼下にせり上って来る。

  999の汽笛は、尾をひいて鳴りひびく。

  花火が列車の到着を祝って炸裂する。この上なくにぎやかで、人々のごったがえすトレーダー。

車掌「ここは楽しい所ですよ。命の洗濯がここでは、できますでス」

クレア「何事もなければいいけど……」

  トレーダーの駅前、西部劇とアラビアンナイトのバクダッドの市場と大江戸八百八町がゴチャマゼになったような町。宇宙的な高層ホテルのとなりには、小屋があるといったぐあいの訳のわからない所。

  二人は町はずれの指定ホテルにとまる。部屋に入り、くつろぐ鉄郎のハナ先にいいにおいが漂ってくる。

鉄郎「このにおいは……!!」

メーテル「本物のラーメンのにおいね」

鉄郎「本物のラーメンがここにはあるのか、合成ラーメンじゃなくて」

メーテル「下の酒場で、お酒といっしょにラーメンも食べさせてくれるわ」

鉄郎「俺、たべてくる」

メーテル「お金は?」

  鉄郎、はっとする。

  メーテル、笑ってさし出す。金貨。

メーテル「大丈夫よ、これは銀河鉄道から支給されるお金だから、旅行中は乗客のふところも鉄道がめんどうを見るの」

鉄郎「はーー」

  感心しながらも、忘れず銃を手にして降りてゆく。

  騒然としたホテルの酒場。

  楽団が宇宙交響曲をかなでる。

  泣く者、唄う者、ケンカする者、みている者、身だしなみのいい者、悪い者、異星人。その中にミーメとトリさんもいるのに鉄郎、気がつかない。

鉄郎「本物のラーメンおくれ」

オヤジ「はいよ、地球から来たのかね?」

鉄郎「そうさ」

オヤジ「金は?」

鉄郎「あるよ」

オヤジ「金貨じゃないか!!」

鉄郎「いいぜおつりは、機械伯爵の家をおしえてくれたらね」

  ……とそれまで騒然としていた場内がシーンと静まり返ってしまう。

  オヤジあわててラーメンをたべようとする鉄郎を奥へひきずり込む。

オヤジ「あんた機械伯爵に何の用があるんだ?」

鉄郎「殺す」

オヤジ「バカ、やめろ。おまえなんかが歯の立つ相手じゃないよ」

鉄郎「家を知ってるんなら教えてくれ!!」

オヤジ「バカ、大きな声で機械伯爵なんていうもんじゃないぜ。人に聞かれたらどうするんだ!!」

鉄郎「居所を教えてくれるくらい」

オヤジ「それがまずいのさ、ここではね。ま、長生きしたかったらどんな恨みがあるか知らないが機械伯爵の事なんか忘れる事だ」

  そういいながらオヤジ、鉄郎の銃に気がつく。

オヤジ「この銃は?」

鉄郎「俺のさ」

オヤジ「これと同じのをもってる男がもう一人ここに住んでいるぜ……そういやあんたの帽子とそっくりなのをその男もかぶってる……そうだあの男には機械伯爵も手が出せねえからな、あいつに伯爵の事を教えてもらうといい」

鉄郎「その人はどこだ?」

オヤジ「ほら、あそこに見えるガンフロンティア山の下に住んでるよ」

鉄郎「ありがとう!!」

 

  あまり鉄郎の帰りが遅いので、メーテル、降りて来る。

  廊下のかげでオヤジ、二人の男にしめあげられている。

「おい、あの若いのに何をしゃべったんだ、じじい!!」

オヤジ「何もいわんよ。 フロンティア山のふもとの男の事を言っただけだよ」

  男たち、メーテルが近づくのに気づいてさっと姿を消す。

 

  惑星ヘビーメルダーの荒漠たる大地。鉄郎、砂漠用の重力自転車から降りる。

  山のふもと、何もない砂の大地、砂塵が風にふかれてもうもうと舞い上っている。

  突然、その中を鉄郎のかぶっているのと同じデザインの帽子がころがってゆく。

  鉄郎、思わず頭に手をやるが自分の頭にはちゃんとのっかっている。

鉄郎「!!」

  鉄郎、帽子をおっかけて拾う。そしてふり返ると……!!! そこには、奇怪なデザインの家が、半分出来たような出来ないような姿で建ちかけている。その前に、岩にもたれて立っている一人の男……メガネのガニマタのマントの男。

トチロー「ありがとう」

鉄郎「あんたは……」

トチロー「大山トチローさ……しかし驚いたな、なぜ俺と同じ帽子をかぶってるんだ?」

鉄郎「銃ももってるぜ」

トチロー「!!」

  近よってくる。なぜか、足もとがふらついている。

トチロー「そりゃ、俺が家においてきた銃じゃないか!!」

  といいつつ腰に手をやるが、トチローは丸腰。

トチロー「このごろ重くてな、家の中においてある」

鉄郎「あんたの母さんにこれをもらったよ」

トチロー「オレのおふくろに? 会ったのか? どこで?」

鉄郎「タイタンでね……」

トチロー「元気だったか?」

鉄郎「うん、あんたはもう生きて帰らないだろうって、淋しがってたよ」

トチロー「そうか、元気か……そりゃよかった……まあ中へ入れ。俺に用があって来たんだろう?」

鉄郎「まあね……」

  トチロー、未完成の家の中へ鉄郎を案内する。雑然とした屋内、酒のビンがウズ高くつみ上げられている。

鉄郎「ここで何をして住んでるの、あんたは?」

トチロー「説明してもおまえにゃわからん、第一名も名乗らないで物事を人に聞くな」

鉄郎「すみません、星野鉄郎です」

トチロー「何しに来た?」

鉄郎「機械伯爵を追って来た。母の仇だ……機械の体をタダでくれるという星へ行く途中だが、まず伯爵をやっつける事が俺の目的だ」

トチロー「機械伯爵なら時間城にいるよ」

鉄郎「時間城?」

  トチロー、窓から指さす。はるか彼方に、かすんで山のようなものが見える。

  トチローかたわらのパネルを操作する。突然窓に流体カーテンが降りる。

トチロー「見せてやる」

  ボンという音と共に二人のいる部屋の中央に巨大な立体像が浮ぶ。それは、まさしく城と呼ぶにふさわしい建造物だった。壮大なメカニズムの城だった。上の方は雲の中にかくれ、途中黒い鳥が無気味な群をなして舞っていた。

トチロー「これが機械伯爵の時間城だ。悪い奴でな、こいつがトレーダーへ来て以来、ここは……このヘビーメルダーという星全体がいやな所になっちまった。奴の趣味はな、人間狩りだ。人間を殺して剥製(ハクセイ)にして飾る事だ」

鉄郎「俺の母さんも伯爵の人間狩りで殺されたんだ!!」

トチロー「そうか……それで仇をね……まあ、気をつけてやれ。のむか?」

  トチロー、酒をすすめる。鉄郎、手をふる。

トチロー「手がふるえてるぞ。ふるえる手じゃ、銃は撃てない」

  鉄郎、トチローに心の中を見透かされているようで、恥いる。

  酒をのむ。

鉄郎「なんだ、この酒は!? ぐふっ」

トチロー「俺の親友がな、以前カニ星雲の近くでみつけて来てくれたトカーガ人の酒だ。こいつは男に勇気を与えるよ」

鉄郎「親友っていえば、エメラルダスがあんたを探してたぜ」

トチロー「エメラルダスが?……お前、会ったのか?」

鉄郎「ああ……メーテルも一緒だった」

トチロー「メーテルもか……みんな元気なんだな」

  というと、フラフラとトチローへたり込む。

トチロー「気にするな、俺は死なんよ、絶対死なんよ。まだ死んでたまるか、俺にはまだやりたい事が山ほどあるんだ。死んでたまるか……」

  トチロー、遠くをみつめる。そして、手まねきして下の部屋へつれてゆく。

  そこは驚くべきメカニズムの充満した実験室。トチロー、中央の台へはい上る。

トチロー「いいか、俺が横になったらそこのレバーをさげてくれ。俺は今死ぬ所だからな、このままじゃもう二、三分の命だ」

鉄郎「さげるとどうなるんだ」

トチロー「俺は死んで、ある所へ行くんだ」

鉄郎「えーっ」

  と驚いたとたん、トチローの指がボタンを押す。鉄郎、いやでも底板が抜けるのでレバーへしがみつく。

  部屋にプラズマの電光が走り、大地をゆるがして轟音がとどろく。雷のように稲妻が大地をさき、空電となって宇宙へかけ昇ってゆく。

  遠く町にいるメーテルもそれを見ている。

  町の人たちもいっせいに見上げ、そしてつぶやく。

町の人「トチローが死んだ!!」

メーテル「トチローが!! あの人ここに居たの?」

オヤジ「知りあいかね……いたよ、たった今死んだ……あいつは口グセのように言ってたもんだ。自分が死ぬ時、稲妻となって空へ上ってゆくって……いい奴だったのにな……」

メーテル「大山トチローが死んだ!!」

 

  砂塵ふきすさぶ荒野、鉄郎は墓を造った。一本の木を立てて墓標とする。

  その墓標に鉄郎はトチローの帽子と銃をかける。黙祷(モクトウ)する。

鉄郎「おばさん……タイタンのおばさん、おばさんの息子はいま死んだよ……」

  ガラガラとトチローの家がつとめを果たしたようにくずれおちる。

  トリさんが墓標の上にとまって涙を流す。

鉄郎「俺は町へ帰るぞ。おまえはどうするんだ、ご主人がいなくなって飢死するぜ」

  トリさんはむこうをむいてうなだれている。

  鉄郎……砂漠をあるきはじめる。ふり返るとポツンと小さなトリさんが墓標にとまっているのが見える。

鉄郎「……人間は寿命が来れば死ぬんだ……夢もはたせず途中で死ぬんだ……」

  つぶやきながら歩く。

  鉄郎のまわりを、とりかこむように立つ影。いつのまにか囲まれていた。

  それは酒湯にいた男たちだ。

  鉄郎、銃に手をかける。

  閃光がはしり、鉄郎の手から銃がとんだ。

  機械の手が鉄郎の顔面に炸裂した。ふくろだたき。


  夜のトレーダー。

  酒場、誰もいない。メーテルがポツンとカウンターに座っているだけ。中にオヤジ。

メーテル「おそいわ」

オヤジ「なあに、男は夜帰って来ない事もある、一人前になればね。おっと、奴はまだ一人前じゃなかったかな?」

  その時外で物音がする。

メーテル「!!」

  涙だらけ、血だらけの鉄郎がころがり込んで来る。

メーテル「鉄郎」

鉄郎「やられたよ……銃をとられた……」

メーテル「不用意に伯爵のことをしゃべったのがまずかったわね」

鉄郎「……畜生!! ひきょうな奴らだ」

  鉄郎、オヤジからもらった水をむさぼるように飲みほす。くやしそうに歯ぎしりする。

鉄郎「だけど伯爵の家はわかったんだ……明日俺はのり込んでやる。必ず伯爵をたおしてみせる」

  そこまで言うと鉄郎は気を失う。

 

  ベッドにねかされている鉄郎。

鉄郎「畜生……畜生、機械伯爵め……くそ」

  うわごとを言い続けている。

  メーテル、自分のベッドでじっと天井を見ている。

鉄郎「銃がない……俺の銃がない」

  鉄郎、ガバとおきあがる。外は夜明けの光につつまれている。

鉄郎「そうだ、あの墓にもう一丁の銃が……」

  見るとメーテルはいない。

  鉄郎、下へ降りる。オヤジ、酒場の丸テーブルでイスに座ってウタタネをしている。

鉄郎「メーテルは?」

オヤジ「え、え、あ、メーテルさんかい! 用事があるって列車へ戻ったよ」

鉄郎「そうか……おじさん、ここに銃はないかい」

オヤジ「あるにゃあるが……とても機械伯爵相手に使える代物じゃねえ」

鉄郎「いってくる」

  鉄郎、砂漠へとび出そうとする。

オヤジ「バカいっちゃいけねえ。砂漠じゃ、機械伯爵の一隊が人間狩りの最中だ。出かけたら十分もしないうち生皮をはがれるぜ」

  遠くで悲鳴とレーザーの閃光がみえる。

オヤジ「な!! ムダ死にはやめて、朝メシをくってゆっくり作戦考えるんだな。あんたはまだ若い」 鉄郎「機械伯爵は無限の命をもってるぜ!!」

  鉄郎、無念の表情で遠くの砂漠を見る。

  トチローの墓標……手前にたたずむ男一人……男の腰にトチローと同型の銃が吊るされている。

  トリさんが、その男の肩で泣いている。男はマントを風になびかせて身じろぎもせずに立っている。

  トレーダー分岐点の大操車場内の999。

  メーテル、機関車の中。

メーテル「エメラルダス、返事をして、どこにいるの?」

エメラルダス「メーテルどうしたの?」

メーテル「あなたの銃をかして……それと……」

エメラルダス「銃を? あの人が造ってくれた私の銃を?……だってメーテル、同じものを鉄郎がもっているじゃないの」

メーテル「それが、うばわれたのよ、機械伯爵一族に」

エメラルダス「そう……でもメーテル、私がいまいる所は遠いし……第七時間帯の流れをのりきろうとしている所なの、少し時間がかかるわ」

メーテル「急いで」

  機関車の中のマシンがはげしく作動している。

  朝のホテルの酒場。再び騒々しくなっている。鉄郎、悄然とテーブルで朝食を前にしている。

オヤジ「ゆくのか、どうしても?」

  鉄郎、うなずく。

  オヤジ、壁にかけた古い銃を見て首をふる。

オヤジ「どなたか、この若いのに銃を貸してやってくれる奇特なお人は居らんかね?」

  どっと笑いが上る。

男A「おまえにゃオモチャのガラガラが似合うぜ」

男B「母さんの所へ泣いて帰れ」

鉄郎「なにっ」

  鉄郎、猛然となぐりかかる。

男B「面白え!! 俺に勝ったら俺の銃をくれてやらあ!!」

鉄郎「ほんとだな!!」

  猛烈ななぐり合い。

  鉄郎、ノックアウトされる。

男B「ペッ」

  鉄郎をけとばし、ツバをはきかける。

  鉄郎、おきあがろうともがく。

  男にふんづけられ、大勢に笑いものにされる。

鉄郎「畜生ーっ!!」

  その時、ドアの開く音。一瞬、酒場内シーンとする。

  重々しい足音……サーベルガンのふれる金属音。

  鉄郎をふみつけていた男の足、ふるえだす。

  グワン。なぐられる音、ふっとぶ音……それでも声を立てる者はいない。

  床に両手をついた鉄郎、やっと身を起こす。

  ガタン。目の前の床に男の手が銃をおく。それはトチローの墓標にかけておいたトチローの銃だ。

鉄郎「あ……」

  うずくまる鉄郎の肩にたくましい男の手がかかる。

声(ハーロック)「これはお前の銃だ、俺の親友はそういっている」

  鉄郎、はっとしてふりむく。

ハーロック「俺の親友をほうむってくれてありがとう。あいつにかわって礼をいうぜ」

群衆「ハーロックだーっ!!」

  その一声で酒場の無法者たち、ある者は逃走し、あるものはへたり込む。

  鉄郎の目の前に立つハーロック。

  轟音が地軸をゆるがす。窓から見上げる空にアルカディア号がゆっくり降下して来るのが見える。

ハーロック「戦うのか、機械伯爵と?」

鉄郎「はい」

ハーロック「気をつけてゆけよ」

  そこへメーテル帰ってくる。

ハーロック「やあ、元気かメーテル」

メーテル「お久しぶり……でもハーロック」

  メーテル、鉄郎を見てつぶやく。

  鉄郎、マナジリを決して立ち上がる所。

ハーロック「行かせてやれ」

オヤジ「無茶だ!!」

  鉄郎、だまってみんなを見まわし、無言で出てゆく。

  まっすぐ時間城のある方向へ。

ハーロック「行かせてやれ、鉄郎はこのためにスラムで生き抜いて釆たんだ。鉄郎は、今行かなかったら生涯後悔する……男には一生に何度かはたとえ負けるとわかっていても行かねばならん時があるのだ……鉄郎にとっては今がそうだ……鉄郎は男だからな!!」

  ハーロック、鉄郎を見送る。ミーメ、鉄郎の側へ行って赤い花をわたす。

  メガロポリス駅で花をくれた同じ異星の女だと気づく。

ミーメ「アナタハ男……負ケハシナイ」

  鉄郎、笑う。そして、ゆっくりと進んでゆく。砂漠用自転車に乗って……。

メーテル「なぜトチローが死んだのに気がついたの、ハーロック」

ハーロック「トチローは死なない。体は亡びたけど魂はあの中にいる……アルカディア号の中に!!」

  アルカディア号の中に入るメーテル。

  中枢大コンピューターが点滅している。

コンピューター「メーテル……ヒサシブリダネ……俺は鉄郎ノオカゲデヤットコノ中ヘ入レタヨ……俺ハ死ナナイ……コノ船ノ中ニズットイル」

メーテル「永久に死なないというわけね」

コンピューター「イイヤ……コノ船ノ……ハーロックト四十人ノ仲間ガ死ヌ時……俺モ死ヌ……船モ死ヌ……ソレデイイノダ……」

  コンピューター、一段とうなる。

メーテル「エメラルダスにはあなたが砂漠で死んだ事はいわないわ」

コンピューター「アリガトウ……キミハ、イツモヤサシイ人ダ」


  そびえたつ「時間城」。肉迫する鉄郎。しかし障害は何もない。

鉄郎「ワナか……」

  巨大な門前に立つ。ふと鉄郎が見上げると、黒い影のような女が城壁の上に立っているのが見える。

  ハッとするまもなくゴーーッと無気味な音を立てて城門がいきなり開く。

機械伯爵の声「よく来たな、用件を聞こう、入れ!!」

  鉄郎、フラフラと入る。その中に骸骨がゴロゴロしている無気味な所、まるで地獄の中のよう。

鉄郎「俺は星野鉄郎だ。母さんの仇をうちに来た。男なら出て来て勝負しろ!!」

  そうさけんだ鉄郎は、ハッと身をかくす。

  閃光がはしり鉄郎を粉砕した。ころげ出たのは未来型カセットデッキ。

  「俺は星野鉄郎だ、母さんの仇をうちにきた。男なら……」とくり返し放送する。

  本物の鉄郎は地下道の中。

伯爵「ふふふ……仲々ケンカのしかたを心得た男だ。よかろう相手になってやる」

  鉄郎の足元もそこら中骸骨だらけ。何かがうなる音がする。

  機械伯爵の居間。伯爵、ゆっくり銃をみがいている。

伯爵「どこへもぐり込んだか、ネズミめ」

  伯爵、ゆっくりとオイルの盃をほす。

伯爵「利巧なネズミは迷路を通ってやがてここへ出る」

  伯爵、図面を示す。

  鉄郎、迷路をくぐり抜ける。楽な方、楽な方へと抜ける。

  そして、いきなり伯爵の居間へ。

伯爵「なに!? 楽な方へ楽な方へと抜けて来ただと? ワナだとは思わなかったのか!! 人間は二つあれば楽な方はさけて通ろうと思うはずだが……」

鉄郎「おまえは機械の体は立派でも頭の方は進んでないなっ。死ねっ!!」

  伯爵、鉄郎が撃つより早く次の間へとび込んでシャッターを降ろす。

伯爵「リューズ、時間を進めろ!! かまわん、骨にしてしまえ」

鉄郎「時間を進める?」

  リューズ、ゆっくりドレスを脱ぐ。機械の体。

  リューズ、ゆっくりとまばたきをする。

  かたわらの花がみるみる枯れてしぼんでゆく。

  鉄郎の腹がグ〜と鳴る。

  鉄郎、空腹のあまりフラッとなる。

鉄郎「おかしいな……さっき食べて来たのに……」

リューズ「二十時間もたてば、おナカもすくわ」

鉄郎「二十時間?」

リューズ「私は時間をあやつる女リューズ……いまのまばたきが二十時間……こう手を動かせばもう四十時間」

  鉄郎、へたり込んで銃をもっていられない。

リューズ「これであなたはもう六十時間のまず食わずの徹夜つづきってわけ……この城が時間城ってよばれる意味がおわかりね」

  リューズ、戸棚を開く。中には機械化人の体がいっぱい。

リューズ「ここへ入って死んだ人たちのものだけどね。高級品もあるわ」

鉄郎「いやだ……俺は自分の力でタダで体をくれる星へゆく……条件がつくならいやだ」

リューズ「死んでも?」

鉄郎「俺にはやりたいことがある。体とひきかえに自由を失うのなら死んだ方がましだ!!」

リューズ「自由がそんなにいいの? あなたのやりたい事ってそんなに大切なの?」

鉄郎「そうだ……たったひとつの限りのある命だ。生きているうちに精いっぱいやるだけの事をやるんだ。機械の体のおまえにわかってたまるか!!」

  リューズ、いきなりボタンを押して伯爵の入った部屋のシャッターを開く。

  伯爵、ゆうぜんとねそべっていたが、驚き、あっけにとられる。

伯爵「リューズ!!」

リューズ「鉄郎、伯爵とカタをつけなさい。そのあとでゆっくり話しあいましょう」

  リューズがいい終らないうちに、伯爵の銃が火をふく。

  鉄郎も死力をふりしぼって撃つ。

  連射の反動で、つかれきった鉄郎の体がのけぞる。

  伯爵、肩のオイルタンクから火を出して倒れる。

伯爵「まて、お前の母親など覚えちゃいないぞ。まちがいじゃないのか? おい、まってくれ」

鉄郎「お前は地球の家に……あの暖炉の上に母さんを飾った……雪の中で殺して、俺の母さんを!!」

伯爵「あれか……あの親子か……あの小さい方がお前だったのか!!」

鉄郎「そうだっ!!」

  再び撃ちあう。伯爵、火だるまになる。

伯爵「やめてくれ、脳だけは破壊しないでくれ。修理が出来なくなる!!」

  鉄郎の追いうちをくらってころげおちる。

伯爵「リューズ、なぜだ……なぜうらぎった……」

リューズ「昔の私をね……血の通った体の頃の自分をね、思い出したのさ。鉄郎をみてたらね……」

  リューズ、悲しそうに伯爵を見る。

リューズ「夢もあった。希望もあった……恋もした……しかもよりによってあなたにね!! あなたの気に入るように改造に改造を重ねて……いつのまにか時間をあやつれる奇妙なバケモノになってしまった……でもね、あやつれないものもあったわ。鉄郎の心の中……わかる伯爵さん」

  伯爵、もう声も出せない。

鉄郎「俺はお前ととりひきなんかしないぞ。時間を進めたけりゃ進めろ!!」

リューズ「仕事は終ったのね。これでもうあなたは気がすんだのね」

鉄郎「いいや、これで半分だ」

リューズ「半分?」

鉄郎「そうだ半分だ!!」

 

  リューズ、鉄郎を送って城門の所までくる。

リューズ「鉄郎、あなた私きらい?」

鉄郎「いいや……でも昔の……生身の体のきみにあいたかったよ……」

リューズ「……過ぎた夢ね……」

  鉄郎、城門を出る。門の上、リューズ、別れの手をふる。

リューズ「私はここにずっといるわ……帰りに……もう半分の仕事が終ったらまたあそびに来て……」

  門の上に、気息奄々(キソクエンエン)たる機械伯爵の影。大型の反射砲を操作して鉄郎を狙う。引き金をしぼる。

  突如、谷のむこうから舞い上るアルカディア号。

  一瞬たじろいで、その狙いがそれる。

  第二弾を、鉄郎に送ろうとする。

リューズ「時間よ、一〇〇〇年の時をきざめ!! 私もろ共二〇〇〇年の時をきざめ!!」

  リューズが城門の上で両手をあげてさけんだ。

  城内の時が一気に進む。キレツが入り、伯爵の体はサビにまみれ悲鳴さえかすれてゆく。

リューズ「鉄郎、いつかおまえはおまえの自由とひきかえにメーテルを守らなければならない時がくる。きっと来る。それがおまえの宿命よ」

  城はくずれ、粉々にちってゆく。リューズ、体も一気に古び、バラバラにくずれさってゆく。

  もうもうたる土けむりの後には何も残らない。

  立ちつくす鉄郎。

  アルカディア号、ゆっくり降下してくる。

 

  アルカディア号のキャビン。

ハーロック「俺は手助けしたわけじゃないぞ。見物に来ただけだ……とどめをさすのを忘れたな鉄郎。宇宙で敵と戦う時は、一度撃ちはじめたら相手がたち上れなくなるまでたたけ!! そうでないと、おまえが返りうちにあうぞ」

アルカディア号の声(トチロー)「鉄郎!! ヨクヤッタナ。銃ハ二(フタ)ツトモ、オマエニヤルゾ」

ハーロック「俺はトチローが死んだ時……この船に魂が宿ったのでわかった……」

メーテル「あなたが手伝って動かしたのは、一種の転送機だったのね」

ハーロック「鉄郎!! いつか又会おう。いつの日かこの船に乗りたくなったら来い。みんなまってるぞ!!」

  見上げるアルカディア号の上、みんなが手をふっている。

鉄郎「機械の体なんてものを宇宙から全部なくしたら、必ずゆきます、キャプテンハーロック!!」

メーテル「機械の体を全部!!」

  メーテル、愕然(ガクゼン)とする。

ハーロック「そうか……おまえの目的は機械伯爵をたおす事だけではなかったんだな。それでこそ男だ、負けるなよ鉄郎!!」

  アルカディア号、轟音を立て、髑髏の旗をなびかせ上昇してゆく。

鉄郎「いつか言うって約束したね……メーテル。僕の目的は機械の国を、機械化人の世界そのものをブチ壊すことだよ。ぼくは母さんと暮して……母さんを殺された時からそう考えて来たんだ。機械の世界が人間を人間でなくしてゆく大本(オオモト)なんだとね」

メーテル「それがあなたの目的……」

鉄郎「そうだよ、いままでだまっていてごめん……」

メーテル「………」

  メーテル、絶句して何も言わない。


  トレーダー分岐点に汽笛が鳴る。999上昇してゆく。トチローの墓標が淋しく立っている。

  列車、星の海をゆく。

  化粧室、メーテル、何かと話している。

「メーテル、気をつけなさい。気づかれたぞ……鉄郎を守れ……あの子は思った通りの子だ」

メーテル「はい」

  メーテル、席へもどって来る。みると、鉄郎、きれいなシャツを着ている。

メーテル「まあ、どうしたの?」

鉄郎「クレアさんにもらったんだ」

  通路にカラカラとガラスのひびきを残して、クレアが消える。

メーテル「よかったわね」

  心から嬉しそうに笑う。

  あたふたと車掌、走って来る。通りぬける。

鉄郎「?」

  大震動、車掌、デングリこける。

  列車に襲いかかる戦闘艇……二十機あまりがまるで駅馬車を襲うインディアンのように周囲を駆けめぐりながら交互に攻撃して来るのだ。

  数両の列車が破壊され、煙が車内にたちこめる。

車掌「だ、脱線します」

メーテル「鉄道警備隊は?」

車掌「ワープして来ても一時間はかかります」

鉄郎「それじゃまにあわないぞ」

  クレアがたおれる。

  鉄郎、助け起こす。

クレア「ありがとう、鉄郎さん」

鉄郎「きみがわれないかと思って……」

クレア「あなたのためならくだけてもいいわ……あなたは私のたった一人のお友だち……」

  鉄郎、パッと顔が赤くなる。

  又、命中。列車きしみはじめる。ガタガタしはじめる。

機関車「非常事態……非常事態……第一級非常事態。攻撃者ハ星野鉄邸ノ身柄ノ引キ渡シヲ要求!!」

鉄郎「俺を?」

メーテル「あなたの目的がはっきりしたのよ……あなたが危険人物だという事がわかってしまったの……」

  メーテルの言葉が終るか終らないうちに鉄郎達の車両に直撃が!!

メーテル「鉄郎!!」

  鉄郎は破片の下。

  窓の外の戦闘艇に動揺が起きる。数隻が爆発をおこした。

  クイーンエメラルダス号が砲火を開きながら突入して来たのだ。

  戦闘艇はけちらされちりぢりになって逃げる。

 

  エメラルダス、移乗して来る。傷ついた鉄郎を見る。

エメラルダス「その銃は……」

鉄郎「トチローさんのだよ……あの人は死んでしまった……」

エメラルダス「死んだ? あの人が?」

  エメラルダスの目、大きくみひらかれる。

エメラルダス「あの人が死んだ……」

  メーテル、だまってエメラルダスの肩を抱く。

メーテル「あの人は死んだわ……死んで魂はアルカディア号そのものになった……」

エメラルダス「アルカディア号に……キャプテンハーロックのアルカディア号に……」

  宇宙の海をゆくアルカディア号の勇姿。

エメラルダス「メーテル、気をつけなさい。鉄郎は狙われてるわ」

メーテル「傷ついたので、死んだと思ったでしょうね、多分……」

エメラルダス「そう……ねむらせておいた方がいいわ。死んだと見せかけるために……」

メーテル「鉄郎の目的は機械世界を抹殺することよ、エメラルダス」

エメラルダス「トチローもよく言ってた事ね。あの人は……目的を達せずに船の魂になった……鉄郎は……第二のトチローかもしれないわねメーテル」

  エメラルダス、淋しく笑う。メーテルをちょっと抱きよせると、ひたいにキスをして出てゆく。

  列車とクイーンエメラルダス号、別れてゆく。


プロローグ 第一章:
旅立ち
第二章:
タイタン
第三章:
冥王星
第四章:
トレーダー分岐点
第五章:
終着駅惑星メーテル
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