第五章:終着駅惑星メーテル


  999、アンドロメダの光の海の中へ……鉄郎、コンコンと眠っている。

  車掌、入って来て、例によって着駅をつげる。

車掌「次の停車駅は終着駅メーテル……惑星メーテル、機械化母星メーテル!!」

  ガラスのクレア、その名を聞いてビクンとふるえる。

  鉄郎、コンコンと眠っていて何も知らない。

  メーテル、だまって窓の外を見ている。

 

  惑星メーテルがしだいに近づいてくる。それは浮かぶ要塞(ヨウサイ)のような輝く機械母星だった。

  999、汽笛をならしてゆっくりゆっくり機械化母星メーテルの上に降下してゆく。

  せり上ってくる壮麗な機械化星の表面。

  クレア、ふるえ上ってそれを見ている!!

クレア「鉄郎さんが危ない……鉄郎さんが危ない!!」

  いよいよ駅が近づく。車掌も車掌室へ閉じこもってしまう。

  鉄郎、やっと目がさめる。

  灯火の列と惑星の表面をみておどろく。

鉄郎「こんな……」

メーテル「ここが終点……機械の体をタダでくれる星。機械化母星メーテル」

  鉄郎、変った名前にしばしポカンとしている。

メーテル「ここは惑星メーテル、機械世界の中心……」

鉄郎「惑星メーテルだって!! それは一体……!!」

  999号、終点の駅へ降りる。駅の名もメーテル。

  息づくような機械音楽が流れる。生きた機械の町。

  あらゆるものが機械、道ゆく人も葉も木も花も虫も動物も、生きとし生けるもの全て永遠の命をもった機械の世界。

 

  列車が止まると、ドヤドヤと機械ポリスが乗り込んで来る。

機械ポリスA「星野鉄郎はおまえか!!」

機械ポリスB「死んだと思ったのにな!! しかしこういうしぶとい人間はいい部品になる」

鉄郎「メーテル!!」

  メーテル、だまってどうすることもできないと、首をふる。

機械ポリス「メーテル様、お役目ご苦労様です。いつもいい部品になる優秀な人間を連れてきて下さって……」

鉄郎「メーテル!! メーテル!!」

  鉄郎の顔、みるみる怒りに燃え上る。

  死力をふりしぼってメーテルの頬を打つ。バシッ!!

鉄郎「メーテルは機械化人の……機械の国の人買いだったのか!!」

  鉄郎の目からみるみる涙があふれる。くやしくて胸もはりさけんばかりの鉄郎。

メーテル「………」

  メーテルは何もいわず、あらぬ方向をむいて涙を流している。

鉄郎「卑怯者ーーっ、許さないぞーーっ」

  鉄郎、あらん限りの声をふりしぼって絶叫する。

  ガン、鉄郎、後頭部に一撃をくらってたおれる……暗転。


  鉄郎、夢うつつの内に惑星内部深く下へ下へと降下し、運ばれてゆく。

  どこまで降下しても、中心までびっしりメカニズムの続いた巨大な機械化都市。

  まるで大コンピューターの内部へ降りてゆくようだ。

  鉄郎、台にくくりつけられたまま暗いホールへ入れられる。

  冷酷な声がひびく。

声A「部品第二八九九九八九八二二五六八七四号……人間名・星野鉄郎」

声B「適性は?」

声A「中央ブロックのネジ」

声B「理由は?」

声A「意志が強く、相当のショックを受けても折れたりぬけたりはしない男です」

鉄郎「ネジだと、俺をネジにするつもりかっ!!」

声A「そう、心をもった生きたネジにする。生きた部品になる」

 

  メーテル、列車の中。

「メーテル泣くな!! 仕事はこれからだぞ!!」

  車掌とクレア、その声がどこからしたかわからなくてまわりを見回す。

  メーテル、涙をぬぐって立ちあがる。

「つらいか……」

メーテル「はい……いままでここへはこび込んだ人達の事を思うと……胸がちぎれそうです」

「みんな信じて……我々の勝利を信じてここへ来たんだ。鉄郎のほかはな……メーテル!!」

  その声はメーテルの胸の所から聞こえて来る。

メーテル「ポリスさん」

機械ポリス「はい、メーテルさま」

メーテル「女王に会います」

機械ポリス「はい、かしこまりました。お母さまはことのほかお喜びになるかと……」

メーテル「ムダ口はいらない、案内しなさい!!」

  メーテルは動く歩道をゆく。降下する。やはり中心へ。ポリスが先導する。

メーテル「来るたびに構造が変っていて、わからなくなるわ……」

 

機械ポリス「メーテルさまをお連れしました」

女王の声「おはいり」

  扉、自動的に開く。

  光の道。あふれる内部。機械のホール。

女王「おかえりメーテル。ごくろうさまね」

メーテル「お母さんはこれで満足ですね」

女王「ええ、とてもね。つれて来る部品はみな優秀だしね」

メーテル「今度つれてきた部品は……?」

女王「今、機械化中です。見ますか?」

メーテル「ええ」

  女王、手を上げる。床をひらいて二人降下、機械化手術室へ。

女王「おまえの連れて来た人間の機械化には、いつも私が自分で立ちあう事になっています」

  手術台にセットされる鉄郎。入って来たメーテルを見て憤怒の形相。

鉄郎「何しにきたっ!! 俺のこのザマを見て笑いにか!!」

女王「私の娘に無礼な口をきくと部品にせずに殺しますよ」

鉄郎「女王?……きさまはだれだ!! 合金の固りのアンドロイドか!?」

女王「女王プロメシューム……機械世界を支配する者」

鉄郎「機械の化け物か!! くそーっ、機械伯爵をやっつけたと思ったら……機械の化け物といっしょに旅していたとはな!!」

メーテル「私は……」

  といいかけたその時、例の声がひびく。

「プロメシューム、おろか者めが……おまえは勝ったつもりか!! この私がここに来ているのにも気づかぬとは、何が機械の国の女王だ!!」

女王「だれだ私の名をよび捨てにする無礼者は!?……メーテル……おまえ……」

  メーテル、ゆっくり胸元をひらく。両手で小さな球体をとり出す。

女王「それは?」

メーテル「お父さん……魂だけがエネルギーとなって小さなカプセルに……お父さん」

女王「お父さん……あの男か!! 反機械世界を目指したあの裏切者のドクターバン!!」

「そうだ、プロメシューム。哀れな機械の女よ。今、ここで、私の心は……エネルギーはときはなたれる!! 私のエネルギーは、この惑星の中心を破壊しバラバラにくだいてしまうのだ」

女王「おろかな事を。生きた部品で結合された惑星メーテルが破壊できるとお思いですか?」

  女王、勝ち誇っている。

「メーテルが歯をくいしばって部品となる同志をはこんでいたのは何のためだと思う? 部品となった同志たちが、要所要所の重要部分に配置されているのは何のためだと思う?」

女王「同志……!? 何の事なのメーテル」

メーテル「私がはこんで来た人々はみな志を同じくする人々……機械世界を破壊するために身を犠牲にする事をいとわぬ勇敢な人々……私は泣きたいのをがまんしながらそういう人々を大勢ここへ送り込んだ……」

女王「メーテル……母親の私をおまえまでが裏切ったのか!! 宇宙で一番美しい体をおまえにあたえたこの私を……永遠の命をさずけてやったこの私を!!」

メーテル「そして永遠の苦しみも下さったわ」

  メーテル、涙をうかべている。

  女王、鉄郎を見ていう。

女王「おまえは平気なのか、ここでカプセルからあの男をとき放てば……星が破壊されておまえも死ぬのだぞ」

鉄郎「いいとも、機械化世界を亡ぼせるのならかまわないぜ」

  メーテル、ゆっくりとカプセルをさし上げる。

女王「やめてーっ!!」

  女王、恐怖の悲鳴をあげる。

 

  列車の中、機関車、車掌とクレア、通信している。

車掌「アルカディア号!! アルカディア号応答せよ」

クレア「クイーンエメラルダス号、クイーンエメラルダス号応答して下さい!!」

  クレアの声は、悲鳴に近い。体が明々と光り輝いている。

  空間をゆくアルカディア号。

  ハーロック、艦橋に仁王立ちとなっている。

ハーロック「針路××ポイント、加速五〇〇パーセント、両舷全速!! 目標惑星メーテル!!」

  アルカディア号、ゆっくり変針し空間を進む。

ハーロック「エメラルダス号に信号、ワレニツヅケ」

有紀螢「もうついて来ています」

台羽正「コンピューターが、あの人がよんだのです」

  中枢大コンピューターがうなっている。

  機械化惑星メーテル、空間で次第に発光を増してゆく。宇宙に声が……メーテルの声がひびく。

惑星メーテル「私はメーテル……機械化惑星メーテル……永遠の命……永遠の自由をもつもの。私はメーテル……永遠の時間の中を私は進む……永遠の宇宙を終ることなく!!」

  惑星メーテルがゆっくりと動きはじめる……それは生きた惑星なのである。

ハーロック「あの惑星は意志をもっているぞ!! 生きた星だ!!」

  追って行くアルカディア号とエメラルダス号に、のしかかるように惑星メーテル自体が向ってくる。

  狂ったように惑星メーテルの笑い声が宇宙にこだまする。

  惑星の表面のいたるところから衝撃砲の閃光が光り、光線の束となってアルカディア号とエメラルダス号にのびてくる……。

有紀螢「キャプテン、これは危険です……相手が巨大すぎます」

ハーロック「俺は鉄郎がゆく時にもいった……負けるとわかっていても行かねばならなくなると……今がその時だ!!」

コンピューター「ソウダ! オトコナライカネバナラヌ……!!」

  アルカディア号とエメラルダス号、砲をふりたてて進む。

ハーロック「標的、赤道中央部、連射三連!!」

  アルカディア号、エメラルダス号、発砲する。

  惑星表面に爆発がおこる。

  アルカディア号もエメラルダス号も傷つく。

  惑星全体に悲鳴がはしる。

女王「戦え。たかが無法者の船二隻が何だ、戦え」

  しかし、機械化兵たちは右往左往しているだけ。

機械化人A「女王、逃げましょう。我々は無理をしなければ永遠に生きられます。ここで破壊されたら何にもなりません」

機械化人B「そうだ、あいつらをそっとしとけば、私たちは永遠に生きられる」

  機械化人たち、脱出をはかる。

  道路、壁の部品までが口々にさけび、手を(結合部を)はなして叫びはじめる。

  惑星の全構成物がくずれてゆく。

女王「ひるむなっ!!」

  アルカディア号とエメラルダス号、砲をうちまくりながら今や惑星表面を突進してゆく。

  建造物までが身をよじってよける。

  メーテル、ささげもったカプセルをたたきつけようとするが、出来ない。

メーテル「この星は……この星は私自身!! この星の心は私の心、ひとつはこの体に、ひとつはこの星の心に、別れてくらしてるけど……元々はどちらも私!!」

  ゆれ動くホールの中でメーテル、もだえ苦しむ。

女王「メーテル、メーテル」

  鉄郎、カプセルへ手をのばす。

「そうだ、鉄郎、今だ。カプセルを破壊しろ!! おまえはそのために来たんだ!! やれ、限りある尊い命のために!!」

  鉄郎、カプセルをとり、ふりかぶって壁にたたきつける。

  閃光がはしり、壁が悲鳴を上げてバラバラになりはじめる。

 

  外部から見た惑星メーテル。粉雪が舞い上がるように構成部品が宇宙へ散りはじめた。

  999、蒸気をはきながらさかんに汽笛を鳴らす。

  あばれ込んでゆくアルカディア号とエメラルダス号。

  女王の悲鳴。崩壊し、バラバラになってゆく機械化惑星メーテル。その中を上へ上へと脱出してゆくメーテルと鉄郎。

  全構成物が悲鳴を上げ、手をはなし、惑星は今や全壊してゆくのだ。

  四方八方へ球状星団が四散するようにとび散ってゆく、惑星メーテル。

  ハーロックとアルカディア号、徹底的に星を破壊してゆく。部品をけちらしてバク進する。

  列車を守るエメラルダス号。

  メーテルと鉄郎、やっと列車へたどりつく。

  999号、高く汽笛をならすと発車する。

  その前方をなぎはらって脱出路を開くエメラルダス号。

  惑星メーテルの悲鳴が長く長く尾をひいて消えてゆく……。


  平和な宇宙を999号はゆく。両側にアルカディア号とエメラルダス号。

  列車の中……ハーロック、エメラルダス、鉄郎、メーテル、クレア、みんないる。

ハーロック「鉄郎、まだ戦いは終わったわけじゃないぞ」

鉄郎「わかっています。地球はまだ機械化人の巣です」

エメラルダス「帰るの、そこへ?」

鉄郎「ええ、機械化人と戦うには機械化人と同じ体になってからでないと勝てないと思ってましたが……これでよくわかりました。奴らは危険に立ち向おうとしない心のくさった機械生物だ!!」

ハーロック「限りある命だから人は精いっぽい頑張るんだよな、そうだろうトチロー?」

コンピュータ「ソウダ」

ハーロック「じゃあ鉄郎、いつか又会おう」

鉄郎「仕事が終ったら……」

エメラルダス「メーテル……じゃ、さよならね」

 

  二隻の船、列車から離れて宇宙の星の海の中へ消えてゆく。

メーテル「エメラルダスは燃えつきる時まで、命の終る時まで、アルカディア号のあとをついてゆくわ。愛する人のあとを……」

鉄郎「俺もトチローのような男になりたいな、メーテル……」

メーテル「鉄郎」

  メーテルはそっと鉄郎の手をにぎる。

メーテル「これが機械の体の手?」

鉄郎「いいや、これは……」

メーテル「これはあなたのお母さんの手よ」

鉄郎「え?」

メーテル「私はあなたのお母さんの若い時の体をうつしたの……機械でなく生きた体を……あなたのお母さんそのもの……心のほかはあなたのお母さんの若い時そのもの……」

メーテル「こうやってもらった体のひとつが年をとればまたひとつ別の体へのりかえて……果てしない時間の中を旅して来たの……」

鉄郎「それでお母さんに似てるのか!!」

メーテル「もともとはみんな反機械化派の同志なの」

  メーテル、髑髏のペンダントを見せる。

  突然、列車のすみから立ち上った人影。

  いきなり鉄郎を抱きすくめる。

  それは女王プロメシューム!!

女王「道連れさ、メーテル。お前は母親の私を裏切って何もかも私からうばいさった。だから私はお前から鉄郎をうばいとってやる。お前が生涯なげき悲しんで暮すのが私の願いだよ」

  女王の手、ゆっくりと鉄郎の体をしめ上げてゆく。

  メーテル、ふりほどこうとするが、力がたりない。女王は機械化人だ。

鉄郎「くく……」

  いきなりクレアが女王の背後からしがみつく。

クレア「鉄郎さんさよなら。たった一人の私のお友だち、好きだったわ!!」

  クレアの体が発光してピシピシとヒビが入ってゆく。

  バーーッととび散る。

  女王の断末魔の絶叫が尾をひく。

 

  鉄郎、気がつく……ふと、窓の外をたくさんの星が飛んでゆくのに気が付く。

鉄郎「これは……!!」

メーテル「あなたを守って……女王と一緒にくだけ散ったクレアさんの体……」

  みると車掌がデッキのドアをあけて外へすてているのだ。無数の破片となったクレアの体を……。

鉄郎「外へすてるなんて」

メーテル「しかたがないのよ。銀河鉄道の規則で……クレアさんはもうただのガラス球になってしまったんだから」

  クレアの破片は無数の星になって宇宙へ散ってゆく。

鉄郎「クレアさんは星になったんだ、たくさんの小さな星に……惑星の部品になっていた人達もいっしょに……」

  鉄郎、窓ワクの所に小さな破片が一個残っているのを見つける。

鉄郎「クレアさんの破片が一個残っていた……これは涙の形をしている……」

  それは、涙滴の形をしている。

鉄郎「こんな悲しそうな涙は見た事がない」

メーテル「もしかしたら、それはクレアさんの心かもしれないわね」

  涙の形をしたクレアの破片が鉄郎の手の中で光る。

  列車は銀河系へ……オーバーラップして太陽系へ……そして地球へ……。


プロローグ 第一章:
旅立ち
第二章:
タイタン
第三章:
冥王星
第四章:
トレーダー分岐点
第五章:
終着駅惑星メーテル
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