九層地獄でパラディンと握手!( A Paladin in Hell )

モンテ・クック謹製

  ネッソスの主は常変わらず謀略を抱き、そして彼の企みは永遠に続く。地獄の大穴に在りし彼の玉座はデヴィルの蓄えた富に満ち、その治世が揺るぐことはない。八体の暗黒なる者をつき従えし彼の名は(口にするをはばかりし!)アスモデウスなり。

“サーミスの賛歌 The Canticle of Thumis,”、142章15節より

  曰く、正義は栄光より尊ぶべし、義務は願望より尊ぶべし、善は生命より尊ぶべし。偉大なるパラディン、クリサンドラルはこういった人物だった。

  しかし、永きに渡る悪との戦いの末に得られた死の眠りさえ、クリサンドラルには平安をもたらさなかった。彼の葬儀において、クリサンドラルの魂は数十人の生ける会葬者とともに恐るべき魔法でネヘオド寺院ごと九層地獄に連れ去られてしまったのである。

  この悲劇の背後に隠された驚天動地の動機とはいったい何か? 最も勇敢な、最も強い、そして最も決意の硬い勇者のみが回答を見いだす気力を持つだろう。その途地において、彼らは謎のウィザード〈混沌〉のエミリコルと会合し、魔物帆船デーモンウィング号 で航海をし、そして最後は地獄の圧倒的恐怖と恐るべき軍勢に対面するだろう。

  勇者の中でもっとも勇敢なる者のみが“光の道”を歩み、地獄から安全に一同を導くことが出来るだろう。正義の道を賢く歩め。

15〜20レベル・キャラクター、4〜6人向け


序文 Introduction

3.5e版:『http://www.wizards.com/dnd/images/FC2_Gallery/101471.jpg』
  AD&D(1e)のプレイヤーズ・ハンドブックが出版されたのは1978年のことだった。その本の中には“地獄のパラディン A Paladin in Hell”とタイトルが付けられたイラストが掲載されていた。多くの場合と同様に、その下には小ぶりの書体でタイトルが示されていた。

  多くの人々にとって、このイラストはパラディンというキャラクター・クラスの定義となった。聖戦士がたったひとり、地獄の底で魔物の軍勢を相手取って戦うというイメージは、心掻き立てる象徴にして高邁な理想の体現だった。それは我々に、パラディンはいかに見込みがない状況下であろうとも、諦めることなく、善と正義の力への献身を捨てず、悪と暗黒の力に立ち向かう存在であることを示していた。

  この冒険は、そのイラストのタイトルから引用している。その目的は、真に高潔にして善なる者の献身を示し、そして異界における驚異と謎を攻略することにある。PCは不当に地獄に落とされたパラディンの魂を救い、捕らえられた寺院と無辜の民を物質界に復帰させるため、デーモン・シップに乗り地獄まで赴かなくてはならない。

  『九層地獄でパラディンと握手!』は、15〜20レベルという非常に高レベルのキャラクター4〜6人向けに用意されている。PCはこの冒険を完遂するのに、多くの身体能力と経験を必要とするだろう。

  この冒険に乗り出す一行は、うまく魔法のアイテムと武器を装備するべきである。もしキャラクターが敵を破ろうと思うのなら、+5ボーナスの武器を少なくとも1つは必要とするだろう。また+4の武器が1つか2つはあると良いだろう。もしパーティーが15〜16レベルであるなら、DMは彼らの能力を補うべく魔法のアイテムを持たせるべきである。この冒険への挑戦は、恐るべき危険と戦闘が伴う。遭遇は一度にひとつではなく、わずかな休息をはさんで次から次へと連続して行われる。同様に、クレリックは神格の援助を受けるには遠すぎる環境のため、特別なアイテムやスクロールで補うべきだろう(スタッフ・オヴ・ヒーリング の援助など)。

  『九層地獄でパラディンと握手!』のテスト・プレイ参加者は、まずキャラクターをそれぞれ1,800,000経験点で作成した。これは低いことが分かった;2,250,000経験点のキャラクターが、目的を達成するも機会が最良であることが判明した(そして適切な生存率でもあった)。同じく、この冒険のために作られたPCは、魔法のアイテムを50,000経験点分は所持するべきである。この冒険のためにクレリックを作るプレイヤーは、ネヘオドの僧侶を作成するルールを取り入れるべきである。

訳註:ここでの魔法のアイテム数や経験点は2e版のものである。3e版とは勝手が異なるが原文のまま示した。ちなみにファイター15→17/パラディン・レンジャー14→15/ウィザード14→16/クレリック16→18/ドルイド14→15/シーフ・バード18→20に相当する。


冒険の運用 Running the Adventure

  『九層地獄でパラディンと握手!』はプレイヤーとDM双方に興味深い挑戦を提供している。PCが物質界を離れることにより、魔法の働きは異なりはじめる。(付録で詳述されている)これらの変更をDMは複雑であると感じるかもしれない(しばしば変更リストの参照が手間であると感じるだろう:デザイナーもそう感じた)。PCの対抗者はほとんどの場合理知的であり、状況を整理し、事前に防御を敷き、罠や戦略を用意している。これらはテキストで示されている。しかしDMは独自の戦略を考案しても良い。


魔法の武器と宝物 Magical Weapons and Other Treasure

  魔法の武器は2つの異なる問題を提出する。

  第1は、PCたちのアイテムのボーナスが、一時的に“−2”されることである。これは耳で聞くよりも良くないことだ。なぜなら魔法の武器のみが英雄が直面するだろう多数の敵を倒すことができるからだ! 幸いにして、能力を維持した新たな武器を得る機会は数多くある。

  それは第2の問題を持ち出す。地獄とアビスは魔法の武器やアイテムに満ちている。もしPCがそれらの半分でも故郷にもたらすなら、魔法のアイテム数の不均衡を起こすだろう(アイテム数が少ないと嘆く若干のDMにとっては、“互いに万歳 vive la difference' ”な出来事だろうが)。PCが冒険で手に入れるアイテムの大半は、16レベル以上のキャラクターのキャンペーンを不均衡をもたらすほどではない。同様に、次元界移動による減衰効果により、冒険者たちが帰還した際には、たいていのものは本来の能力を失っているかもしれない。

  さらに、冒険で発見した宝物の多くが、その起源を反映する暗黒の不快な、魔物を模した造形をしている。PCのように気高く高名な英雄の一団が、デーモンの鍔をした黒鉄の武器を佩き、髑髏を刻印した棘だらけの鎧を着て、着用者の目を赤く光らせる兜をかぶって街中を歩くことを望むだろうか? 魔物のコインはデーモンやデヴィル、あるいは他の恐怖を呼び起こすデザインをしている(この冒険で手に入れる宝物の50%はこの類のものだ。残りは物質界のものである)。宝飾品と芸術品も同様の問題をもたらす(嫌悪感をもたらすなど)。もしキャラクターがそれらの略奪品を売り払おうとするなら、適切な故買商を発見することは困難であるかもしれない。

  最後に、もしDMがキャンペーンに特定のアイテムを加えることを望まないなら、それらのアイテムは下方次元界に結び付けられているため、物質界では起動できないとすることができる。若干のアイテムは、その内部にデーモンかデヴィルが封じられており、自由になろうとしてアイテムが自壊するかもしれない。またアイテムの周囲には恐るべき呪いが引き起こされるかもしれない。


冒険の概要 Adventure Overview

  この冒険は多くの人々が“マップ keyed map”と呼ばれる書式を用いる。つまり、以下のテキストはマップ上の数字に基づいて詳述されていく。これは登場人物たちが記述された場所に固定されているわけではない。これらの場所の登場人物は知性を持っており、必要に応じて動き回る。またPCたちが思いもよらない方法で準備をし、また強化する。

  『九層地獄でパラディンと握手!』において、PCは罠にかかって失われた、無辜の民で満ちたネヘオド寺院を救うため、九層地獄の中でも未知の領域に赴かなくてはならない。

  しかしながら、彼女らはまず最初に、伝説の魔道士、〈混沌〉のエミリコルを見いだして対話しなくてはならない。エミリコルは彼女らをステュギアまで運ぶことができるデーモンウィング号 ‐ デーモンが作った船 ‐ を与える。彼は真実を話すが、船のデーモン乗組員は所有者 ‐ 偶然、今現在はPCだ ‐ から自由になろうとしていることは言わない。

  地獄への旅は短く、単純であると考えるPCは間違っている。出帆するために、彼女らは船内奥深く(そこは予想以上に広大である)に赴き、敵対的なデーモンを打ち破らなくてはならない。

  不幸なことに、デーモンウィング号 は寺院まで彼女らを連れて行くことができない。目的地付近に到着した後、PCは船に備えられた潜水球を用い、地獄の第五層を覆う凍れる海に潜らなくてはならない。そこには退位させられたアーク・デヴィル・ゲリュオンの〈冷鋼砦〉があり、寺院はそこにある。寺院に至るまでに、PCは彼らと戦い、要塞を突破しなくてはならない。

  ネヘオド寺院において、PCはたったひとりのパラディンの持つ不屈の魂が、失われた寺院と会葬者たちを救うべく、邪悪な勢力の侵攻を滞らせていたことを知る。探索と実践を介し、彼女らは悪の勢力に囲まれた寺院を旧に復すことにより、元の世界に帰還させることができ、また死せるパラディンを永遠の報酬に送り出すことができる事を知るだろう。


DM用背景 DM's Background

  地獄の穴の最深部において、第九層の主アスモデウスは長い間、ヴェイリス・クリスタル Vallis Crystal と呼ばれる物品の損失について考え込んでいた。この単純なアイテムは、アークデヴィルの全存在を物質界に顕現させ、そこに住む住民を堕落させ、彼を神格として崇拝させることができた。しかしながら、クリスタルは強力な定命の冒険者により彼から盗まれてしまった。ネッソスの主はたかが定命者如きにいつまでも拘る事はなかったが、アスモデウスは自身の冷たく暗黒の心にクリスタルを奪った者への憎悪を刻み付けた。

  それら大胆な冒険者の数名は忘れ去られていったが、多くの人々はこの2名については忘れることはなかった:パラディン・クリサンドラルとウィザード・エミリコルである。ヴェイリス・クリスタル はネヘオド寺院に安置され、冒険者たちはそれぞれの己の道を歩いていった。数十年が過ぎ去った;クリサンドラルは多くの国で英雄として知られた。そしてエミリコルは大いなる魔法決闘の後に姿を消した。

  それでもなお、アスモデウスはクリスタルを求めた。最終的に、彼はそれを再び獲得するには時期を待つことが正しかったと判断した;短命の人間は、すでにその存在を忘れ去っていたからだ。彼は人間の下僕である秘術僧侶のラヴィアスを呼び出し、彼女にネヘオド寺院からヴェイリス・クリスタル を盗みだすことを命じた。

  ラヴィアスはオライアドという名の寺院の僧侶を誘惑することに成功した(これは魔法の[魅惑]ではなかった)。オライアドの助けを借り、ラヴィアスは水晶を盗もうとした。しかし、その都度邪魔が入り妨害された。その陳腐な弁明を受け、アスモデウスはラヴィアスにバンズ・オヴ・ヘル bonds of Hell:地獄の拘束 と呼ばれる秘術呪詛の巻物を授けた。それにより、彼女は寺院を丸ごと九層地獄に送り込み、寺院の人々を永遠の業苦に引き渡すことに成功した。彼女はアスモデウスの下僕たちにアイテムを見つけ出すように命じた。

  強力な呪文発動により、ラヴィアスは暗黒の主の目的を遂げると共に自身の目的も遂げようとした。彼女の仇敵であるクリサンドラルは数日前に死亡していた。クリサンドラルは僧侶に、死後自分を蘇生しないように依頼していた;彼は楽園で受け取る報酬を楽しみにしていた。ラヴィアスはクリサンドラルの葬儀まで、呪文発動を待った。そして、彼女は、彼の魂に最後の憩いを与えることを拒むため、パラディンの遺体を中心に呪文を発動した。


PCの巻き込み方 Involving the PCs

  PCに対しこの一連のイベントを導入する最良な方法は、老英雄クリサンドラルとは生前からの付き合いであったとすべきである。完璧に準備が可能であるなら、PCはこの冒険の数ヶ月前にクリサンドラルと行を共にし、重要な同盟者にして友人関係になっているとしろ。さもなければ、キャラクターたちは以前よりパラディンについて聞き知っており、そして彼を高く評価していることにしろ。

  どのような場合であっても、PCは葬儀に招かれる。しかし、ある理由により、彼女らは開始時間に間に合わず遅れてしまう。ネヘオドの高位寺院はキャンペーン世界における主要都市に設けられている。英雄たちが都市を見下ろせる丘陵に立った時、彼女らはかつて寺院が存在した区画がくすぶるクレーターとなっていることに気付く。周囲には硫黄の臭いが立ち込め、そして人々は呆然とし、おびえ、そして事態を掴むことができずに騒然としている。

  修道士メアカル Maercal は寺院とともに消失することを免れた数少ないネヘオド僧の一人である。彼はPCに出会うと共に駆け寄り、寺院消失の状況を説明する:閃光と火花が飛び散ったと思ったら寺院は消失し、地面にはもうもうと噴煙を上げるクレーターが残されていた、と。賢者と魔法使いがオーギュリイ ディヴィネーション 、研究によりこの悲劇を解明すべく召集される。

  当然ながら、PCはこれらについて協力するなら歓迎される。PCが下方次元界に赴くまで、ディヴィネーション は通常よりも明白な助言を与える。善属性の神々は無礼な地獄の力の解放に動転し、可能な限り情報提供を行う。

  研究者たちは24時間を経過するころまでに、すべての情報源を精査し終える。その間に、PCはネヘオド寺院とその聖職者について学ぶことができる。プレイヤー用のマップをコピーするか、あるいは切り離して寺院の詳細について示せ。

  オーギュリイ と研究の結果、寺院は九層地獄の恐るべき呪文の力に囚われており、クリサンドラルの魂は本来受くべき報酬を得るどころか、地獄の業火の中に投げ入れられてしまったことが明らかになる。呪文を発動した悪人は魔女ラヴィアスであり、彼女の所在は謎のままである。寺院を対象にプレイン・シフト グレーター・テレポート を発動しても、それらはすべて失敗する;それらの方法では到達することはできない。

  失望と消沈が最大限に達したとき、異界から招来された炎の翼を持つ超小型の人型生物クリーチャー(メフィット)が現れる。それはメアカルに伝言を託すと姿を消す。

  伝言にはこのように記されている:

  私には失われたものを取り戻す手段を提供することができる。しかし、私は自らそれを求める者にのみそれを与える。
  I can provide the means to recover what has been lost, but I will give it only to those who ask for it in person.
〈混沌〉のエミリコル Emirikol the Chaotic


エミリコルについての知識 Knowledge of Emirikol

  多くの人々はエミリコルの名前を知っている。そして同様に、人々は彼を伝説の存在として忘れかけている。彼と同期のクリサンドラルとは異なり、エミリコルは衆人に姿をさらしていない。彼は約30年前に〈荒廃岬〉と呼ばれる岬で魔法決闘を行い、それ以降姿を消してしまったのだ。〈荒廃岬〉の場所はよく知られている。しかしその地は魔法決闘の余波による魔法の嵐で覆われ、今日に至るまで世界から隔絶した状態となっている。〈荒廃岬〉を寺院から3日の行程の場所に置くか、現地に堪能な強力な魔道士の助けを与えてPCをそこにテレポートさせろ。オーギュリイ コミューン 呪文は、〈荒廃岬〉の場所以外の情報を何ももたらさない。エミリコルについての知識は他のどこを探しても見つからない。


追加情報 Additional Help

  もしPCが外方次元界に精通した賢者の意見を聞くなら、彼はこのような探索行には魔法のアイテムの能力喪失や呪文の効果変質、信仰呪文の消失を警告する。もし彼女らが尋ねるなら、彼は地獄についての詳細とデヴィルの弱点について若干の情報を与えることができる。

  生き残ったネヘオド僧は信仰呪文を使うPCに、下方次元界では彼女らの魔力が極めて低下するかもしれないと警告を与える。これを軽減するため、僧侶たちはクレリックに以下の呪文が記された巻物1枚を与える:キュア・ライト・ウーンズ、ニュートラライズ・ポイズン、キュア・シリアス・ウーンズ、ネイティブ・アイテム、キュア・クリティカル・ウーンズ、ヒール、レイズ・デッド。

  PCが〈知識:次元界〉判定難易度30に成功するなら同じ知識を得るとしても良いだろう。

  ネイティヴ・アイテム は新呪文だ。それを発動することにより、PCクレリックは目標となるアイテムを使用可能にする(アストラル界と交渉できるようになる)。

ネイティヴ・アイテム
Native Item/アイテム原住化
心術(魅惑)
呪文レベル:クレリック4
構成要素:音声、動作、物質
発動時間:標準アクション
距離:接触
目標:魔法のアイテム1つ
持続時間:1分/レベル
セーヴィング・スロー:不可
呪文抵抗:不可
  魔法のアイテムはその製作された次元界を離れることにより、しばしばその能力をいくらか失うことがある。特に影響を受けるアイテムは“ボーナス”を持つものである:魔法の武器、鎧、指輪、そしてクローク・オヴ・レジスタンス などである。この呪文はその持続時間中、アイテムひとつについて、製作された次元界に存在しているかのように本来の能力を復元させることができる;呪文はアイテムひとつに本来の“ボーナス”を与えるのである。

  もしキャラクターがこの呪文が発動されたアイテムを1つを超えて持ち運ぶなら、アイテムの数毎に10%の確率(2個なら20%、3個なら30%など)で次元エネルギーの反動が襲うことになる。その爆発は道具を持っているキャラクターに6d6ポイントの[次元]ダメージを与え、かつキャラクターの所持しているアイテムに発動されていたネイティヴ・スペル はすべて消失する。加えて、それぞれのアイテムは20%の確率で本来の次元界まで引き戻されてしまう(判定はアイテム毎に行う)。この判定は、この呪文が発動された所持品を持つものが、あらたに呪文の発動されたアイテムを追加して所持する毎に行う。

  ネイティヴ・アイテム の発動時、僧侶は魔法のアイテムに呪文の物質要素をこすり付ける:アイテムが製作された次元界の、1粒の土か1滴の水である(もしくは相当物)。

物質要素:アイテムの起源となる次元界の1粒の土か1滴の水(もしくは相当物)

訳註:このルールは2e時代の設定に起因すると考えられる。これを導入することにより、キャラクターは複数の魔法のアイテムを同時に使用する事ができなくなるだろう。非常に興味深い事態であり、DMは吟味の上に導入の可否を決定すべきだろう。

  訳者としては、この制約はシナリオを構成する核であり、これを“不便であるから”という理由で除去することはデザイナーの意図を無視するものであると考える。

  なお、ネイティヴ・アイテム 呪文は巻物ではなく、ワンド(50チャージ)を複数提供した方が良いだろう(希望するだけ)。


ネヘオド寺院:プレイヤー用配布資料
The Temple of Neheod: Player Handout
〈混沌〉のエミリコルの要塞
The Fortress of Emirikol the Chaotic
 
デーモンウィング号
Demonwing
地獄への降下
Descent Into Hell
ネヘオド寺院
The Temple of Neheod


終了 The End

  もしPCがネヘオド寺院を物質界に帰還させることができたなら、僧侶たちと市民は、彼女らが自らを証明した英雄として、歓呼の声で迎える。彼女らを讃える祝宴は数日間にわたって続く。

  しかしながら、おそらく最大の報酬は、彼女らがクリサンドラルを助け、寺院とともに帰還させることができた場合に与えられる。彼の魂は彼女らの前で深く頭を垂れ、このように申し述べる。

  『我は出発するが、その前に我が去ったこの世界を、貴公らのように善なる手に預けることができて嬉しく思う。光の諸力は、貴公らのような〈戦士〉を常に必要としているのだ。』
  “As I depart, it is good to know that I leave the world in such good hands. The forces of light will always need champions like you.”

それとともに、クリサンドラルの魂は彼が受くべき休息を得るため出発する。彼の肉体は彼の全装備とともに消失する。

  膨大な数のモンスターを退治した事で得られた経験点に加え、生き残ったキャラクターは成功ボーナスとして100,000経験点を受け取るべきである。

  もしPCが寺院を帰還させることができなかったが、少なくともヴェイリス・クリスタル を奪還したのなら、彼女らはアスモデウス究極の目的を妨害したことになる(そして今や彼と彼の下僕は彼女らを狩り出そうとする)。もし彼女らが完全に失敗したとしても、決して恥じるべきではない。地獄のもたらす挑戦は、最も偉大な冒険者でさえ困難だ。もし彼女らが物質界に帰還できたなら、DMは彼らに再挑戦の機会を与えることができる。

  シナリオが終了した後も、数多くのエピック級の冒険が待ち受けている。地獄の諸力は、自らの敗北で怒り騒然としている。PCはアスモデウスを敵に回した。そして、それは決して最善策とはいえないことだ。もしゲリュオンが生きているなら、彼は他のすべてに優先してPCの死を求める。キャンペーンは〈大いなる転輪〉中に拡大し、外方(そして内方)次元界全体の神秘が英雄たちを待ち受けているだろう。そしてもちろんデーモンウィング号 がある。そしてそれをPCはまだ所有している。おそらく、それはまだ地獄に残されているだろうが。DMは船の運命を決定するための冒険を作り出すこともできる。特に、他の勢力もそれを欲するだろうからだ。思い出せ。たとえ所有者がその権利を捨て去ったとしても、船は所有者の命令のみに応える事を。所有者の意向を無視しては、ストラオスですら船を自由にすることができないのだ。

  最も重要なことは、生還したキャラクターが地獄の軍勢に直面し、そして勝利を得たことだ。バードが彼女らの苦闘の詩を謡うだろう。そして庶民はその恐怖を振り払うため、彼女らの偉業を讃える物語を語り継ぐだろう。大いなる英雄の物語は伝説となる。

 

  「クリサンドラルは我が良き友であった。そして今、私は彼が去ってしまったことを残念に思う。そう、彼は己が受くべき報酬を、遂に受け取ったのだ(そして、私は彼が憩うことを祈る)。我々は、彼の偉業を新たな英雄たちに語り伝えるべきだろう。もし我々が、いま少し彼に倣おうと努力するなら、この世界はより良い世界となるだろう。彼もまた、彼の残した影響が、このような遺産となるとしたら、それを喜ばしく思うと信ずる。」
  "Klysandral was my best friend, and I will miss him. Nevertheless, as he passes on to his well-deserved reward (and, I hope, rest), we should hold his example up to new heroes. If we all strive to be a little more like him, the world in general will be a better place. He would be happy to know that his influence created such a legacy."
マイチャス・ガイルによるクリサンドラルの追悼演説より
Michuth Gyl, the Eulogy of Klysandral




付録:下方次元界の冒険 Appendix: Adventuring in the Lower Planes

  考えてみれば当然のことだが、原住次元より離れた次元界においては、そこが地獄でないとしても、呪文や魔法のアイテム、特殊能力、より一般的な能力ですらその働きが変化する場合があるということだ。こういった特別な変質は、デーモンウィング号 に乗船した時点、地獄の第五層と第六層に到達した時点、そしてネヘオド寺院内に突入した時点で感じられる。またこの変質はいずれも同じではない。

  最も大きな変質のひとつは、そこはデーモンやデヴィルといったクリーチャーの故郷であり、もはやそれらは[他次元界]の招来されたクリーチャーとは扱われないことである。ウィザードとクレリック双方は、もはやバニッシュメント、バインディング、ディスペル・イーヴル、ホーリィ・ワード、プロテクション・フロム・イーヴル でさえアビスにいるデーモンに対しては有効に働かないことに驚くだろう(上記の場合、プロテクション・フロム・イーヴル は招来されたクリーチャーに対し特に有効である。呪文の他の防御能力は維持する)。これは呪文や術者の問題ではなく、目標に関する変質である。

  さらに、フィーンドの精神を読む呪文や能力の使用は狂気につながる行為となる。ディテクト・ソウツ もしくは類似した呪文や能力の使用者は、人間には推測不能なアビスや九層地獄の恐怖を脳内に現出させるため、その精神を破壊されてしまう。フィーンドの精神を読もうとした場合、(対象の姿形が人間であったとしても)その者は意志セーヴィング・スロー難易度15を行わなくてはならない。成功した術者は知能低下を起こすが(フィーブルマインド と同様の効果)、その効果時間は2d6時間であり、その後は情報の関連付けに成功して回復することができる。失敗した術者は狂気に陥り、ウィッシュ、ヒール、ミラクル、リミテッド・ウィッシュ のいずれかが発動されるまで回復することはない。術者は(条件を満たしていれば)呪文を発動することができるが、精神を覗き込んだフィーンドの種別に基づいて呪文スロットを失う。術者はフィーンドのヒット・ダイスの1/2に等しいレベルの呪文スロットを、無作為にあたかも呪文を発動したかのように喪失する。 失われた呪文スロットは、セーヴィング・スローに成功したのであるなら、次の機会(8時間の休息をとる、または祈祷を行うなど)に通常に回復することができる。セーヴィング・スローに失敗したのであるなら、続く24時間にわたって呪文スロットを回復することはできない。24時間が経過した後であるなら、呪文スロットは通常の手段で回復する。

  ディテクト・イーヴル のような感知呪文は下方次元界では事実上の意味を失う。なぜなら呪文は悪を感知するものであり、その次元界ではすべての構成要素が、キャラクターが呼吸する空気でさえ悪であると感知されるからだ。

  PCが持つ利点のひとつは、物質界を故郷とするにも関わらず、彼女らが“招来”されているわけではない点である。そのため、もしデヴィルがプロテクション・フロム・グッド を発動したとしても、キャラクターは肉体的な接触を妨げられることはない(攻撃に対するペナルティはこうむるが)。しかしながら、物質界を故郷としていてもホーリィ・ワード により退去させられる可能性はある。


秘術魔法 Wizardly Magic

  個々の次元界はそれ自身の規則を持つ独自の世界である。個々の次元界が他の次元界と関連性はあるものの異なる“場所”である。そのため、その変化は微細であるものの、魔法の働きも次元界により異なる。以下の系統の呪文は地獄の第五層と第六層、ネヘオド寺院内、デーモンウィング号 内では基本的に発動することができない:変成術、召喚術(招来、招請、瞬間移動、創造)、幻術(操影)、死霊術。例外として、以下に記された場合のみ利益を得るか制限を受けて発動することができる。

  召喚術(招来)呪文は機能しないが、外方次元界原住のクリーチャーであるならスードゥナチュラル種テンプレート付クリーチャー(『秘術大全』160ページ)を招来することができる(例えばデーモンウィング号 第5区画におけるワストリリス)。このような呪文は術者が存在する次元界の性質により招来対象を決定することになる。そのため、フィーンドの術者がアビスにおいて召喚術(招来)呪文を発動した場合、そのクリーチャーの属性は混沌にして悪となる。原住術者であるなら、召喚術(招来)呪文のいずれであっても問題なく発動することができる。

  最後に、下方次元界と負のエネルギー界とは次元間距離が開いているにもかかわらず(呪文としての、エナジー・ドレイン は発動できない)、下方次元界ではアンデッドを創造することができ、また創造された次元においてなら生命力吸収能力を維持する。


アビスにおけるウィザード Wizards in the Abyss

地獄におけるウィザード Wizards in Hell


信仰魔法 Clerical Magic

  信仰呪文術者は彼女らの魔法を、信仰する神格より引き出す。それは当然ながら ‐ 不快な事実であるが ‐ 術者が神格の領域から離れた次元界に赴くにつれ、その魔力は減衰していく。神格の従者が次元界を渡ることにより、従者は呪文発動能力の有効レベルと1日の呪文数を喪失していく。新たな次元界に移動する毎に、この喪失は適用される。喪失した呪文は通常の祈祷を介して回復させることはできるが、それは低下した術者レベルに適切な呪文数までである。ヒット・ポイント、基本攻撃ボーナス、退散能力、領域特典などの信仰呪文術者が持つその他の能力は変化しない。

  喪失する術者レベルを決定するため、以下の表を参照しろ:

神格の本拠地獄奈落船神格の例
七つの層なす天界山セレスティア−3−7バハムート、ハイローニアス、モラディン、ヤンダーラ
対なす理想郷バイトピア−4−6“きらめく黄金の”ガール
祝福の野エリュシオン−5−5ペイロア
百獣の原野ビーストランズ−6−4アローナ、スケリット
気高き緑の大地アルボレア−7−3コアロン・ラレシアン、セイハニーン、ハナリィ・セラニル、ラベラス・エノレス、
エアドリー・フェンヤ、エレヴァン・イレシア、フェーンマレル・メスタリーン、深きサシェラス
英雄界イスガルド−6−2コード、オリダマラ
無常なる混沌の忘却界リンボ−5−1
風吹きすさぶ魔窟パンデモニウム−4エリスヌル
無限の階層なす奈落界アビス−3デモゴルゴン、グラズト、パズズ、ブリブドゥールプールプ、ディーリンカ、大母、
フルゲック、ロルス、オルクス、マーショールク
深き暗闇の幽閉界カルケリ−2クロノス、ネルル
灰色の荒野ハデス−1−1
永遠に荒涼たる苦界ゲヘナ−2メムノール、マアンジコリアン
九層地獄バートル−3ティアマト、カートゥルマク、セコラ
地獄の戦場アケロン−4ウィー・ジャス、グルームシュ、マグルビイェト、ヘクストア
機械じかけの涅槃境メカヌス−1−5正統女王母
泰平なる諸王国アルカディア−2−6聖カスバート、嵐の諸王
物質界−1−1
属性入り乱るる異境アウトランズオーバド・ハイ、ボカブ
アストラル界
エーテル界−2−2
いずれかの内方次元界−3−3

  良い面として、信仰呪文は秘術呪文と異なり系統単位で制限を受けないことがある。魔法のアイテム(スクロール含め)から発動したのでない限り、信仰呪文は変質したり、系統による制限は一切ない。

  ネヘオド寺院の至聖所は物質界と連結しているため、中に留まったクレリックたちは呪文発動に対する制限をまるで受けなかった。

  最後に、下方次元のモンスターは物質界から来た定命の者が発動した召喚術(治癒)呪文の恩恵を受ける事ができない。しかしながら、ある種のフィーンドと下方次元界のモンスターは、信仰呪文を発動することができ、そしてその呪文は実際に彼らを治癒することができる。定命の者が死霊術呪文を発動できたとしたら、フィーンドはやはりダメージを負う。また属性が異なるにもかかわらず、上方次元のクリーチャーが召喚術(治癒)呪文を発動した場合、それは通常に利益を与える。


魔法のアイテム Magical Items

  原則として、呪文発動が次元界の影響をこうむるように、魔法のアイテムも同様の影響をこうむる。例えば、キャラクターが呪文の制限される(アビスのような)次元にスタッフ を持ち込んだ場合、スタッフ から発動される呪文についても制限される。秘術呪文をこめたアイテムを起動する場合、秘術呪文発動時にこうむる変質と同様の変質を受ける。信仰呪文をこめたアイテムやスクロールについては、所有者のように術者レベルの低下は起こらないが、それらは秘術呪文と同様に系統別の制限をこうむる。上記の注釈を鑑みることにより、DMはゲーム開始前に魔法のアイテムに関するたいていの問題点を推定することができるだろう。

  何らかのボーナスを持つ魔法のアイテム(魔法の武器、鎧、防御アイテムなど)は、それを作成した次元界から引き離すことによりボーナスが減少する。ボーナス減少量は、作成した次元界から1段階離れる毎に“+1”が減少する(信仰呪文術者が神格と離れることによる減衰とは異なる)。例えば、物質界で作成された武器を九層地獄やデーモンウィング号 、ネヘオド寺院に持ち込んだ場合、“+2”を失う(物質界→アストラル界→外方次元界)。この場合、+1と+2ボーナスのアイテムはボーナスを失い、+3ボーナスは+1ボーナスとして扱われ、+4は+2、+5は+3となる。

  魔法のアイテムのボーナスが+0にまで低下したとしても、それは依然として魔法のアイテムであり、ディテクト・マジック により感知され、そして高品質を越える何かがある(そして高品質なことによる強化ボーナスは残るだろう)。もしアイテムのボーナスが+0未満にまで低下するなら、ダンシング のような特殊能力も失われる。ただし、呪われたアイテムに関してのみ、次元界をわたる現象に対して耐性を持つ。

  アビスで作成された武器は ‐ それはデーモンウィング号 上で見つかるだろう ‐ 九層地獄に持ち込むことにより“+1”を喪失する。そしてそれは逆も同様である。


デーモン Demons

  これらのクリーチャーは混沌とした悪を象徴し、そして理由なき破壊と虐待、堕落を具現化している。彼らは熟考した計画より、どちらかと言うと唐突な、野蛮な蛮行に走りやすい。しかしながら、デーモンは愚かではない ‐ 混沌なだけだ。

  デーモンはめったに捕虜を取らない。彼らが捕虜を取ったとしても、ほとんどの場合が悪魔的拷問にかける(あるいは悪魔的欲求の対象とする)ため、捕虜は長生きすることがない。多くのデーモン(特にサキュバス、たまにナバッスゥ、グラブレズゥ、ヘズロウ)は人間を誘惑し、そして堕落させることを楽しむ。しかしながら、根拠地に強力な魔法を使う侵略者がなだれ込んできたのなら、彼らは手っ取り早く敵を殺そうとする。誘惑と誘拐は物質界において行われる。アビスでは、定命の者は単に殺されるだけである。

  もし困ったり危機的状況に陥った場合、デーモンは保身よりも内なる欲求にしたがって戦い、死を選ぶ。より知的なデーモンが明らかに強力な敵に直面したのなら、多くの味方を招来して回復を図ろうとするが、たいていは脅威を粉砕する前に逃走する。

  アビスで殺されたデーモンは真に、物理的にも精神的にも滅びる。それは酷く醜く、汚らわしい死骸だけを後に残す。特に言及されないなら、殺されたデーモンの武器や所持品はその場に残る。


デヴィル Devils

  絡み合う組織と命令系統を裏付けとした悪の存在であるデヴィルは、詐術と計略、機知、腕力を得意とする。策略の中に策略を組み込み、嘘と手管を織り込み、ほど良い恐怖を駆使して他者の行動を操る ‐ これはデヴィルの真骨頂だ。彼らは、自由と個性を憎み、暴虐と支配、征服を体現している。

  例えばこの冒険で、DMはデヴィルの要塞が、デーモンの住居である船と比較して、それぞれの部屋が明白な目的を持つ、規則正しく簡単な構成をしていることを指摘すべきである。〈冷鋼砦〉ではすべてが冷たく、打算的な悪のオーラを発している。

  デヴィルは他人を傷付け苦しめることを、殊に弱者を苦しめる事を楽しむ。彼らは密告に報酬を与え、そしてしばしば敵を殺すよりは堕落させ、奴隷にしようと試みる。彼らの恐ろしいほどによく訓練された精神は、工学や建築学、錠前製作、悪しき秘術魔法に通じている。

  たいていのデヴィルは、少なくとも並以上の知性を持っているのなら、危機的状況に陥ったなら安全に逃げようとする。もし逃走が不可能であるなら、デヴィルは相手と取引するか騙そうとする。デヴィルを解放することは危険である;定命の者はこのような取引で得をすることが滅多にない。この冒険に登場するデヴィルは、自身の命と引き換えに宝物を提供するか、他のデヴィルの忌名を明かすか(これは上役デヴィルの復讐を買う危険な行為であるが、必要であるなら行う)、邪悪な計画を暴露しようと持ちかける。しかしながら、ほとんどの場合、このように生き長らえたデヴィルは結局のところ上役に抹殺される。

  地獄で殺されたデヴィルは真に、物理的にも精神的にも滅びる。特に言及されないなら、殺されたデヴィルの武器や所持品はその場に残る。


CREDITS
Author:Monte Cook
Editor:Steve Winter
Creative Director:Thomas M. Reid
Cover Artist:Fred Fields
Interior Artist:Ame Swekel
Cartography:Todd Alan Gamble
Art Director:Dawn Murin
Graphic Design:Dee Barnett
Typesetting:Angelika Lokoiz
Proofreading and
valuable comments:
Sue Cook
Playtesters:Andy Collins, Bruce Cordell,
Eric Haddock, John Rateliff,
Ed Stark, Lisa Stevens, Keith Strohm
Dedicated to:The Hong Kong Cavaliers